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    ささげもの

    矢端想さんお返しショートショート!

     ←ミズマ。さんプレゼントショートショート! →ホームズ・ジョーク その2
    妄想の荒野」の矢端想さんからとてつもなく美麗なイラストをいただいたので、そのお返しに、西部劇ミステリをどうぞ。

    ちなみに、これには下敷きにした小説があります。お暇なかたは探してみてはいかがでしょうか?

    ではどーん。


    ※ ※ ※ ※ ※


    保安官最初の事件

     なに? 『センティニアル・マン』特集? 百歳の人間からインタビューを? 新聞社も暇じゃなあ。

     わし? そりゃ、一八六一年生まれで、百にもなれば頭がぼんやりとする一方じゃよ。今年が何年かも……なに。百歳なんだから、今は一九六一年だ、じゃと? 年寄りをからかうもんじゃない。そんなことが簡単に……わかるな。耄碌したのうわしも。

     たしかに、お前さんがたに話すに足る話もあるが、そういうものには差しさわりがあることもわかるじゃろう? なにせ、わしはこれでもテキサスの小さな町の保安官だったんじゃからな。変なことを話せば、まだ生きている子孫たちを困らせることになるかもしれん。

     子供のころの話? なかなか考えたのう。じゃが、百年前の子供の生活なんて、アメリカ中ほとんど同じじゃったぞ。

     それでも変わった話が聞きたいとな。変わった話か。こんな話はどうじゃ? わしが、初めて家畜市場に連れて行かれたときのことじゃが。そのときわしは、六歳だったな。

     そのころは、長く続いた南北戦争も終わったものの、アメリカはまだまだ不穏じゃった。

     噂が流れておったことは話しておかんといかん。野盗たちが組織を作り、盗んだ宝石をメキシコへ密輸しようとしているという噂がな。よほど頭のいい野盗らしく、片端も尻尾をつかませないというんじゃ。

     わしもそれを聞いておった。でもなにせ六歳だから、それがどれだけの価値なのかなど、とんとわからん。それでも、初めての家畜市場じゃ。楽しみでならんかった。

     そして当日、わしは市場の規模にびっくりした。ほら、お主も聞いたことがあるじゃろう。『右も左も人の波 もろこし粥を見るような』という……いや、こっちが正確な『ヤンキー・ドゥードル・ダンディー』の歌詞じゃ。まったく若いもんはものを知らんで困る。

     どこまで話したかの? そうじゃったな。わしが家畜市場の人ごみに腰を抜かしていたというところじゃ。

     それでも、子供じゃから、あっちを見たりこっちを見たりする。なにもかも珍しかったからのう。だが、そのうちわしは、便意を催してきた。

     作りつけの便所というものがどれほど臭いものか、今の若いものにはわからんじゃろうなあ。しかし、それはどうでもいい。出すものを出してほっとしながら辺りを見ると、物陰で、ひとりの男が、あたりをはばかるようにして牛になにかを食わせておるではないか。牛は、どうも調子が悪いようにわしには見えた。

     わしはどうしたらいいかわからなくなり、戻るや否や父親に相談した。しかし、父は、商売のほうが大事だったんじゃろうなあ。牛に薬でも飲ませていたんじゃろう、などといって取り合ってくれんかった。そんな牛、買うやつなんかいない、ともいったな。

     それでもわしがぐだぐだいうもんだから、父は怒って、わしを平手打ちした。わしは泣き喚いたとも。そこへ通りがかったのが、この市場を見回りに来ていたこの町の保安官じゃった。

     わしが泣きながらわけを話すと、保安官は真顔になった。

    「お父さん、よく聞いてください。この子が見たのは、例の宝石密輸団かもしれません。牛に宝石を食わせておいて、警備をすり抜けようというつもりなのかもわかりません。とにかく、取引が始まったら、その牛を調べてみましょう」

     そのときのわしの嬉しさがわかるかね。詩人が歌う英雄になったかのような思いじゃった。父は不審げにしていたが……。

     そして、取引が始まった。

     牛は、わしの目にもすぐわかったね。なにせ、いかにも調子が悪そうな、病気を持っているんじゃないかという牛じゃったからなあ。

     保安官は、わしの言葉を聞いて、さっそく、その牛の売主に礼儀正しく訊ねた。

    「失礼ですが、その牛、市場に出すには調子が悪いのではないですか?」

    「食ったものが悪いだけだ」

     売主は答えた。

    「旅をしていれば牛だって病気になる。混じることだってあるさ。どうせ売れなければ、その場で殺すんだからな」

    「それでは、その病気の牛を調べさせてもらいましょう」

    「取引が終わった後じゃいかんかね?」

    「いけませんな。おい」

     刃物をぴかぴか光らせた政府の人間が、その病気の牛に向かって行った……。

     結局? 牛からはなんの怪しいものも発見されなかった。ただの病気の牛だったんじゃ。

     それで?

     わしが黙って父に殴られて家へ連れて帰られていたら、わしはこうして保安官になろうだなどとは考えんかったろうなあ。

     わしは、とがめるような目をした保安官に、泣きながらじゃが、それでもはっきりこういったんじゃ。いうべきことはいわんといかん、そう父親からしつけられていたからのう。

     なにをいったかって?

     もしかしたら、あの男は、わしが見ていることを知っていて、あの牛になにか妙なものを食わせたのではないかと、わしはいった。

     なぜって? あの牛に、皆の注意を引きつけるためじゃ。

     すると、怪しいのは、一緒に売り渡すほかの牛たち数十匹ということになる。

     飲み込ませる宝石も、大量の牛に一粒ずつ飲み込ませたら、あまり目立った変化もないに違いないからな。

     保安官は、わしの言葉を聞いてくれて、その牛たちを一時預かり、そのたれる糞を見張れと部下に命じた。

     命じるまでもなかったな。その売主は、それを聞くや否や、脱兎のごとくその場から逃げようとしたんじゃから。すぐに保安官の部下たちが取り押さえたのは立派じゃったなあ。

     それでも、翌日、わしの目の前で、牛が大粒のエメラルドの混じった糞をひり出したときには、びっくりしたもんじゃ。

     野盗どもは、その男が白状させられたねぐらを襲われ、一網打尽。協力者も芋づる式に根こそぎじゃ。悪が栄えたためしはないのう。

     これが縁で、わしは保安官の助力で大学まで出してもらい、こうして長いことこの町の保安官を勤めることになったわけじゃ。郡保安官の話もあったが、わしはこの町が好きじゃったからのう。

     そうそう、わしが六十五のときじゃから、今から三十五年前じゃが、わしは後進に道を譲るため自ら職を辞した。

     市長たちがパーティーをやってくれて、市長夫人がわしのそばに寄ってきたんじゃが、わしは、思わず吹き出しそうになった。

     なぜって? そのチョーカーに飾られている大粒のエメラルドは、賭けてもいいが、わしがあの日、牛が肛門からひり出すのを見たあのエメラルドに間違いなかったからじゃ。

     それを思い出すたび、おかしくて、おかしくて……。

     ちょっと記者さんや。これも記事にするつもりではないだろうな。

     今、市長をやっているのは誰だと思っとる。あの市長の息子だぞ。

     こんなことを記事にされたら、わしたち家族は今の市長からなんといわれるか……これ。やめてくれんか。やめてくれんか。後生じゃから、のう?
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    ~ Comment ~

    Re: 矢端想さん

    いや、この訳はアシモフ「黒後家蜘蛛の会」の一編で歌われていたのを無断コピー(^^;)

    「ファーザーとおいらは野営地へいった グッドン大尉に連れられて 右も左も人の波 もろこし粥を見るような」と本にあったフレーズがやけに気に入ってしまって……(^^;)

    しまった、プレゼントなのに「若い女の子成分」を入れるのを忘れていた。不覚……(^^;)

    子供を使ったところはマイケル・イネス先生の某ショートショートのいただきだったりします。あまりに引き写し方がそのままなのでちょっと恥ずかしかったりします(汗)

    NoTitle

    ポール先生!
    とてつもなく美麗な牛糞の話、ありがとうございます!

    ほのぼのタッチの西部昔話という趣ですね。
    下敷き小説、わかりませ~ん。(ミステリには疎い)

    「ヤンキー・ドゥードルの正確な歌詞」とは、まっこと先生は「蘊蓄市場」でいらっしゃる。
    僕の持っている本では「おとなやこどもがぐちゃぐちゃとおった」なんぞとなっております。「there we saw the men and boys, thick as hasty pudding」というくだりですな。
    なんにしても今の若いもんは「アルペン踊りをさあ踊りましょう」としか知らなくて困る。

    これは拙ブログでもぜひ掲載させていただきます!
    でも、挿絵どうしよう・・・若い女の子が出てこないもんなあ・・・襟元に牛フンくっつけた市長夫人じゃあんまりだしなあ・・・。
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