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    趣喜堂茶事奇譚(うんちく小説シリーズ)

    趣喜堂茶事奇譚/そして死の鐘が鳴る(その1)

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     ぼくががらんがらんと音を立てて「趣喜堂」の扉を開けると、中にはこんな春だというのにコートを着たサングラスの男が、暗いテーブルで仏頂面をしながら「GRナンバー5」を読んでいた。

     「GRナンバー5」とは、石ノ森章太郎先生の、マイナーな漫画である。ぼくも内容をよくは知らない。

     卓上にはオレンジジュースとおぼしきオレンジ色の液体の入ったコップが置かれているが、男が口をつけたようすはない。

     いつもの明るいテーブルは、と見れば、捻原さんの姿はない。どうしたのかと思っていると、捻原さんは厨房でグラスやカップを洗っていた。

    「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」

     ぼくは、横目でコートの男を見ながら明るいゲームテーブルに座った。

    「カフェオレ……できます?」

     どことなく声がおずおずとしてしまった。なんとなく、奥のサングラスの男には近寄りがたい威厳があったのだ。

    「できますよ。しかし……」

    「しかし、あの娘ほどうまくは入れられん」

     サングラスの男がぼそっと口を開いた。

    「学生さんだろうと思うが、悪いことはいわん、おれと同じく、ソフトドリンクにしておけ」

    「は……はあ。じゃ、メロンソーダください」

     ぼくは気おされるものを感じながらいった。

    「本は、いつものエアードの『そして死の鐘が鳴る』を」

    「かしこまりました」

     ぼくはちらりと男に目をやった。

     男は黙ったままで「GRナンバー5」の次の巻に取り掛かったところだった。

     オレンジジュースに口をつける様子はない。

     ぼくは運ばれてきた氷入りのメロンソーダにストローを差し、ちびちびとすすりながら「そして死の鐘が鳴る」の続きを読み始めた。

     「そして死の鐘が鳴る」は、キャサリン・エアードというイギリスの女流作家が書いた犯人当ての謎解きミステリである。

     形態としては、密室もの……に入るのだろう。その密室がものすごいのだ。

     事件現場となるのは教会の塔。粉々に砕け散ったいくつもの巨大な彫像により、男が圧死しているのを発見されるのだ。

     その扉は積もった大理石の破片によりほとんど開かなくなっている。

     そして、その男は、圧死する前に気絶させられていたことが判明する。計画的な殺人事件だったのだ!

     いったい、なぜ、どうやって大量の大理石の彫像は破壊されなければならなかったのか? というのが無類のサスペンスを生む……というタイプの作品ではない。

     捜査はしごくのんびりと進む。そう、これは、ユーモア・ミステリとまではいかないが、肩の力を抜いて楽しむタイプのミステリなのだ。

     ぼくは差し挟まれるとんちんかんな会話に、にやにやしながらページをめくり、のんびりしたイギリスの風景を頭に浮かべていた。

     しかし、どうして大理石の彫像は破壊されたんだろう?

     ガイドブックによれば、物理現象を使った独創的なトリックが使われているとかいうのだが……。

    (この項続く)
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    ~ Comment ~

    Re: limeさん

    バカみたいなトリックが魅力の作品もあります。(チェスタトンとかね)

    精緻なロジックが魅力の作品もあります。(クイーンとかね)

    人間ドラマが魅力の作品もあります。(山田風太郎とか)

    マヌケなコメディが魅力の作品もあります(クリスピンとか)

    それぞれ違ってどれも楽しいです(^^)

    貪欲だなわたし(^^;)

    NoTitle

    ポールさんにとって、ミステリーの魅力はやっぱりトリックですか?

    私も昔(中学生の頃)は、とにかくトリック・・・でしたが。

    しかし、昔読んだ海外ミステリーの内容、すっかり記憶から抜け落ちてます。ダメな脳です。

    かろうじて覚えてるのは「Yの悲劇」(だって、少年が出てくるから)←やっぱりそこか。
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