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    趣喜堂茶事奇譚(うんちく小説シリーズ)

    趣喜堂茶事奇譚/戻り川心中(その1)

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     本とゲームにばかり没頭していると、彼女のひとりもできるわけがない。それはぼくも重々承知している。

     しかし、目の前にそういう現実を突きつけられると(どういう現実かはここには書かない)、やけにもなるというものだ。

     やけ酒を飲むには陽が高すぎるし、かといってやけ食いには気分が乗らないしで、ぼくはやけ読書ないしやけゲームをすることにした。

     となると、向かう先は一箇所だ。

     ぼくは覚えにくい裏道を通り抜け、「趣喜堂」の立てつけの悪い扉をがらんがらんと押し開けた。

    「いらっしゃいませ」

     舞ちゃんが出迎えてくれた。井森のやつは来ていない。

    「エスプレッソみたいなとびきり苦いブラックコーヒーをダブルで」

    「は……はい」

     舞ちゃんは目をぱちぱちさせていた。

    「それと、少しだけ時間を忘れさせてくれる本かゲームを。ツイスト博士はいる?」

     ぼくは奥のテーブルを見た。

     ツイスト博士こと、捻原さんはいなかった。

    「店長は寄り合いに出かけたので、しばらく帰ってきませんが……。ゲームのお相手でしたら、わたしがしましょうか? チェスでもチェッカーでも、一風変わったゲームならガイスターでもマンカラでも、カードゲームがよろしければジン・ラミーでもクリベッジでもおつきあいしますけど。もし作戦級や戦術級のウォーゲームがやりたければ、西部戦線シリーズやスコードリーダーくらいまでならなんとか……」

     ぼくは今、舞ちゃんがむぞうさに挙げたゲームのリストを聞いて、くらくらしてくるのを覚えた。「作戦級」だなんて、普通の女の子が知っている言葉じゃないぞ。

    「いや、ゲームはいいや。本にしてくれないか。ものすごく技巧的なミステリがいい。作り物の世界に耽溺したい気分なんだ」

    「わかりました。なにかいいものをみつくろいます」

     舞ちゃんは、サイフォンに、いつものごとく捻原さんが挽いたであろう粉をたっぷり入れ、アルコールランプに火をつけてコーヒーの抽出にかかった。

     その間も、ぼくは自分のしでかしたことの恥ずかしさに頭を抱えながら暗いテーブルで頭を抱えていた。

    「こんなのどうでしょうか?」

     舞ちゃんは、ぼくの前に一冊の文庫本を差し出した。

     連城三紀彦の「戻り川心中」だった。

     この作者については、名前だけは聞いたことがあった。昔あまたの作家を輩出した「幻影城」という雑誌でも、泡坂妻夫と並ぶビッグネームである。

     耽美で華麗な作風が、その特徴といわれている。華麗とも耽美とも縁のないもてない大和男子としては、それだけで敬遠してしまうところだ。

     「戻り川心中」は、日本推理作家協会賞を取った、その代表作だが。

     こんなに薄かったんだっけ?

     しかも短編集じゃないか。

     日本推理作家協会賞もあてにならないんじゃないかなあ、短編じゃ。

     ぼくはそんなことを考えながら、ページを開き、収録短編を頭からひとつずつ読んでいくことにした。

     最初の作品は、「藤の香」だった。

    『色街には、通夜の燈がございます』

     書き出しから、ぼくの読む気をなくしてしまうような代物だったが、まあ、舞ちゃんのおすすめとあっては、読むのが礼儀だろう。

     ぼくはページを繰った。

    (この項続く)
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    ~ Comment ~

    Re: 村石太&杉田&伊藤&タカ&トムさん

    はじめまして。

    それはうらやましいですねえ。

    作家のかたの講演には、あまり行かないたちなので……。

    小説同好会(名前検討中

    昔 中部ペン で 直木賞作家の連城さんの 講演 聴きました。
    小説同好会(名前検討中
    • #4216 村石太&杉田&伊藤&タカ&トム 
    • URL 
    • 2011.05/30 21:54 
    • [Edit]  ▲EntryTop 

    Re: ねみさん

    今いくらの値がついているんだろう?

    版を変えては出ている本だからなあ……。

    NoTitle

    なかなか怖い題名の本ですね。

    どれどれ、アマゾンで・・・。

    Re: ぴゆうさん

    もう、最近は春雨のくせにゲリラ豪雨なんかになって季節もなにもよくわからんですなあ。

    まあ立夏は過ぎているからもう夏なのですが、それでも今の時期に台風1号ですからなあ。わけがわからん。

    10年後にはさらに二十四節気の内容が有名無実化したりして。とほほほ。

    NoTitle

    こんびんはー
    日記を書きに来やした。
    へへ

    今日は大雨ざんす。
    豆軍団が心配だよ。
    折れちゃいそうだもの。
    私のグリンピース作戦が頓挫しそうだい。

    また明日ニャーー
    ニャハハハ
    v-15

    Re: limeさん

    よくよく考えたら、このわたしの「夢の喫茶店」に、つまらないと思った本が置いてあるわけがない!(笑)

    それに、悪口を書くことで、この「空気」のようなものを壊したくないんですよね。

    おしゃべりはするけど悪口はいえないのがこの喫茶店のルール。

    それに、淀川長治先生が、そのご著書で「つまらない作品」を批判するのにやっておられたことを思い出すと、それがいちばんの方法かなと。

    つまり「完全無視」するわけですが……(^^;)

    Re: 秋沙さん

    うーむごめんなんし(^^;)

    日本の作品も精力的に取り上げるつもりです。

    レディジョーカーいきましたか……感想あとで聞かせてくださいね。

    NoTitle

    >「ハズレ」の作品について、小説の登場人物の口を借りてイヤミをいうなんてとてもわたしには……面白そうだからやろうかな(笑)。

    是非、やってほしいwww
    何がどうつまらないかを聞くことは、素晴らしい作品の書評を聞くよりも参考になりそうです。

    私は途中で「つまらない」と思った時点で、読むのを辞めてしまうので、そういう意見もなかなか書けなくて。

    あきささん、「レディジョーカー」行きましたか。
    私も「マークスの山」と「地を這う虫」のあとに、行きます^^
    私も1年かかりそうですi-201

    NoTitle

    うおお。海外ミステリーにもボードゲームにも疎い私は、何をどうコメントしていいやら困っていましたが(^^;

    戻り川心中、読んでみたいなぁって前から思っていたので、気になる気になる~~~。

    あ、だけど、「レディージョーカー」読み始めちゃった・・・。本屋に高村作品がそれしかなくて・・・
    こりゃ、1年くらいかかりそうだぞ(T0T)

    Re: limeさん

    ついでにいっておきますと、このシリーズで、サブタイトルとして取り上げられている作品で、わたしが「ハズレ」だと思ったものはひとつもありません。

    「ハズレ」の作品について、小説の登場人物の口を借りてイヤミをいうなんてとてもわたしには……面白そうだからやろうかな(笑)。

    Re: limeさん

    物語を読んでくれるかどうかは第一印象だけでほぼ決まってしまいますからね。スロースターター(書き出しがゆっくりした印象で、だんだんとテンポを盛り上げていくタイプの書き手)はつらいところです。

    でもわたしには、「ブックガイド」なり「書評」なる強い味方がいるので、信頼できる書評家がすすめた本ならばとりあえず全部読んでみます。

    それで「当たり」だったときの快感はなかなかいいものであります。

    「ハズレ」をつかまされて二度と信じないぞこの野郎などと思ったことも多々ありますけど(笑)。

    競馬新聞を買ってギャンブルをしているみたい(^^;)

    NoTitle

    物語の書きだしって、重要ですよね。

    私はたいてい、1ページ読んで、心を掴まれる何かが無い場合は、書棚に返します。
    これは間違いなのか、正解なのかは、確かめるすべもなくww

    出だしが自分好みでなくとも、最期まで読めば心動かされる作品だったりするかもしれない・・・。
    でも、やっぱり駄作だったら・・・。
    時間>金、な私には、賭けです。
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