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    趣喜堂茶事奇譚(うんちく小説シリーズ)

    趣喜堂茶事奇譚/セブン・カード・スタッド(その2)

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     ぼくは井森とポーカーテーブルについた。

    「まず、お前のポーカーに対するイメージをぶっ壊さなくちゃならない」

    「え?」

    「第一に、よく日本の漫画で出てくるような、カードを交換するタイプのポーカーを、ドローポーカーというんだが、それは今では、家庭や仲間うちで遊ばれる以外はほとんど絶滅している。今の主流は、手札を交換しない、スタッドポーカーに完全に移行してしまった」

    「なんだって?」

    「第二に、現在のポーカーは、プレイヤーに、手札含めて七枚のカードの中から、五枚を選んで役を作らせるのが普通だ。五枚のカードだけで勝負するポーカーは、ほとんど過去のものといっていいだろう」

    「…………」

     目を白黒させている井森に、ぼくはさらに説き聞かせた。

    「第三に、ポーカーが、強い手を作った人間が場のチップを得るというのはそうだが、強い役を作ればいいというものでもない。日本人が子供のころにやっている『ポーカー』は、誰かが自分の手役に満足してストップをかけるまで何度もカードを回しているが、それはたぶん麻雀の影響だろう。だが、ポーカーではたとえロイヤルフラッシュを作ったからといって、ボーナス点が入ることはない。それは、ビデオゲームのポーカーや、カリビアンスタッドといったタイプのゲームにあることで、これからぼくたちがやるポーカーとは別のものだ。ロイヤルフラッシュで、場のチップ三十ドルを得るよりも、ツーペアで場のチップ二百ドルを得たほうが偉い、と考えたほうがいい」

    「なんか……おれが想像していたのとは、だいぶ違うな……」

    「第四に、ポーカーとは、手役ではなく、『どう手役が大きくなっていくか』のリスクとチャンスに金を賭けるゲームだ。このことは、セブンカードスタッドの遊び方を教えるから、よく覚えておいてくれ」

     そのとき、扉ががらんがらんがらんと大きな音を立てて開いた。

    「ああ、馬庭さん、お待ちしてました」

     この前、ぼくの目の前で「GRナンバー5」を読みながらオレンジジュースを飲んでいたサングラスの人だった。

    「馬庭さん、とおっしゃるんですか」

    「君たちも参加するのか」

     馬庭さんは落ち着いた声でいった。

    「ええ、ぼくもこいつも、いいカモかもしれませんが、一度、本格的なポーカーのテーブルを囲んでみたいと思ってましたので。あ、申し遅れましたが……」

     ぼくは名前を名乗って自己紹介をした。

     隣で井森も頭を下げる。

    「井森です」

    「馬庭だ。念流は使えない」

     ぼくはにやりとした。馬庭さん、時代小説もお好みらしい。

    「ルールはご存知ですよね」

    「スタンダードなセブンカードスタッドだろう。ハイローはなかったはずだな」

    「ぼくもそう聞きました。この井森のやつ、この手のポーカーは初めてらしいので、いっしょにルールを説明するのを手伝っていただけませんか。ぼくも確認したいことがあるので」

    「いいだろう。舞ちゃん、チップを持ってきてくれ」

    「『手役がどう大きくなっていくかに賭ける』って、どういうことだよ?」

    「見てりゃわかる」

     ぼくと馬庭さんは、それぞれ目の前にチップを積んだ。練習だから、適当な量だ。

    「アンティですか? ブラインドベット?」

    「アンティでやっている。いちおう、五ドルチップ一枚でいいだろう」

     ぼくと馬庭さんは、それぞれに一枚のチップを場に出した。

    「なんで、一枚出したんだ?」

    「これはアンティといって、ゲーム参加料だ。自分にいい手が入っても、他のみんなが勝負を捨てて降りてしまった場合、一銭にもならなかったらゲームにならないだろ。それを防ぐために、毎回、最低の収入だけは保証するために、全員がアンティを出すことになっている」

    「ふーん」

     馬庭さんは古ぼけたトランプを自分のポケットから取り出し、慣れた手つきでぼくと馬庭さん自身の前に、伏せて二枚ずつ配った。そして、一枚ずつを表にして配った。

    「なんで一枚を表に?」

    「ここから賭けが始まるからだよ」

     ぼくは伏せて配られたカードを見た。クラブとハートの5。そして表にされたカードはハートのキング。馬庭さんの前で表になっているのはダイヤのクイーン。

    「表にされているカードが一番強いプレイヤーから賭けを始めることになる。ポーカーでできることは、『ベット』と『レイズ』と『コール』と『フォールド』と『チェック』だ。今ぼくができることは、『ベット』と『チェック』だ。『ベット』は、チップを賭けることで、これをしなくてはゲームが始まらない。それに対し、『チェック』は『ゼロを賭ける』ということだ。要するにパスみたいなもんだな」

    「で、お前はなにをするんだ」

    「ベットだ。馬庭さん、下限と上限は?」

    「青天井……といきたいところだが、上が三十ドルの、下が五ドルでいいだろう。いくら賭ける?」

    「十ドル」

     ぼくは二枚の五ドルチップを場に出した。

    「これに対して、馬庭さんができることは、『レイズ』と『コール』と『フォールド』だ。『レイズ』というのは、ぼくの出したチップと同額を出してからチップをさらに上乗せすることで、『コール』はぼくと同額を出して、ぼくとの勝負を受けること。『フォールド』はゲームから降りてしまうことだ」

    「レイズ。十ドル。学生さん、いちおうレイズはインターバル、一回の賭けの手番のことだよ、井森くん。そのインターバルで三回までということにしといてくれ。無制限にレイズができたら、ゲームがスピーディーにならないし、大味なゲームになってしまうからな」

     馬庭さんは場に四枚の五ドルチップを出した。

    「わかりました。馬庭さんがレイズしたから、ぼくはさらにレイズすることができる。さらに上乗せしてもいいんだが、ここは練習だから、コールでいいだろう。コール」

     ぼくは二枚の五ドルチップを場に出した。これで場に出ているチップは、五ドルチップが十枚ということになる。

    「これで、次の段階に移ることになる。馬庭さん、お願いします」

     馬庭さんはさらに一枚を表向きに配った。ぼくにはハートの7、馬庭さんはスペードの8。

    「この段階で、さっきと同じことを繰り返すというわけだ。もしここで、ぼくにもう一枚のキングが配られていたり、馬庭さんにクイーンが配られていたりしたら、少なくともワンペアが確定している、ということがわかるわけだ。もしかしたら馬庭さんの手の中にクイーンがあって、すでに馬庭さんはクイーンのペアを確定させているのかもしれない。馬庭さんも馬庭さんで、ぼくの手の中がハート一色で、あと一枚ハートがきたらフラッシュができるのかもしれない、なんてことを考えながら賭けをやっていく。これが、『手役がどう大きくなっていくかに賭ける』ということだ」

    「ということは、お前がフラッシュを完成させていたら、どーんと大きく賭けていい、ということか」

    「それもあるが、もし、ぼくがフラッシュを確定させていることを馬庭さんが確信したら、馬庭さんはさっさと降りてしまうだろう、ということだ。また、馬庭さんがさっきの段階で、大きく張ってきたら、クイーンのペアを警戒して、ぼくは降りていたかもしれない。まあ、練習だから降りないけどね。この、表向きに配って賭ける、ということを、これを入れてあと三回繰り返す」

     ぼくと馬庭さんは、カードを配っては適当にレイズとコールを繰り返した。

     目の前には五十枚近い五ドルチップが積まれていた。

    「これで最後、七枚目だ。これは裏向きにして配る。最重要機密情報だからな」

     ぼくはカードを見た。スペードの5。これで手持ちの5のカードは三枚になる。表向きのカードは、ハートのキング、ハートの7、クラブの3、ダイヤの9。

     馬庭さんの表向きのカードは、ダイヤのクイーン、スペードの8、ダイヤの2、クラブの2。

    「表向きのカードが作る役の強いほうから賭けていくから、馬庭さんから賭けることになるのはわかるよな。2のペアができているからな」

    「ベット。二十ドル」

     この段階で、ぼくの手に5のスリーカード(正確にはスリー・オブ・ア・カインドといわないといけないが、ここは日本の俗称でいく)ができていることがわかったとしたら、馬庭さんはよほどの人だ。

    「レイズ。三十ドル」

    「フォールドしたいところだが、練習だからやむをえまい。コールだ、学生さん」

     馬庭さんはチップを押し出した。

    「ここでショウダウン、手札をさらけ出して勝負、ということになる」

     馬庭さんの手は、2とクイーンのツーペアだった。

    「ツーペアとスリーカードでは、スリーカードのほうが強いから、今回の勝負はぼくの勝ちだ。だから、この場のチップは全部ぼくのものになる」

     ぼくは、手を伸ばすと、ごっそりと、六十枚になんなんとするチップを自分のほうに持っていった。

    「これで、一回の勝負は終わり。またアンティを払って、続けるというわけだ」

    「なんとなくわかったようなわからないような。でも、このゲーム、大金がごろごろ動くということだけはわかったよ」

    「上等だ」

     馬庭さんは、またカードを切り始めた。

    「井森くん、だったかな? この店の夜の常連客がやってくるには、まだ時間がある。あと四人ほど来るはずだ。いずれ劣らぬ、舞ちゃんの料理の信奉者だからな。それまで、わたしと君と彼とで練習をしておこうか」

    「ありがとうございます」

    「なに、プロ野球でも、オープン戦というのは負けるためにあるんだ。君たちの考えのパターンがわかるだけでも、わたしとしては儲けものだと思っている。本戦が始まったら、手は抜かないからな」

     ぼくも勝負勘を取り戻したいところだ。舞ちゃんの新メニューは、井森には悪いが、ぼくがいただく。

    (この項続く)
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    ~ Comment ~

    Re: しのぶもじずりさん

    麻雀競馬パチンコを問わず、わたしが好きなのは「カネをむしり取る」ことではなく、「頭と度胸と運を使って遊ぶこと」だと気づいたのが、小学生のころシミュレーションボードゲームを初めて遊んだときです。世の中にこんな面白いものがあるのか、という思いでした。

    それから紆余曲折を経てボードゲームオタクになるわけですが、それら魅力的なゲームの数々に出会っていなければ、バクチでカネを使いこむようなギャンブル依存症になっていたと思います。(^^;)
    • #8081 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.05/21 14:50 
    •  ▲EntryTop 

    私の部屋にばくち打ちが集まって、賭博場と化していた時期がありました。

    その時使っていたのは、子供銀行券。
    毎週末 景気良く札束が舞っていました。
    異様に盛り上がります。
    みんな単純だから……。
    「それ! 百万だ!」
    「くそっ、二百万いっちゃうぞ!」

    Re: ミズマ。さん

    今いちばんはやっているポーカーのゲームルールは、「テキサスホールデム」というルールだそうです。

    わたしにはこちらでプレイした実戦経験がないため、今回は用いませんでしたが、相当面白いゲームらしいです。

    ポーカーのローカルルールは百を超えるといわれ、分厚い研究書も出ているそうですが、英文も読めないし本も買えないので、想像するしかありません。

    まあ、セブンカードスタッドにせよテキサスホールデムにせよ、ネットで探せば簡単にもっと正確なルールにアクセスすることができるので、そちらを当たったほうがゲームへの早道だそうですね。

    ポーカーのゲームをするには、ポーカーチップがあると便利ですが、ドンキホーテでも100枚498円と高価なので、「誰でも周りにひとりくらい持っている人を知っている(笑)」国民的ゲームの「人生ゲーム」のお金を流用すれば、実際にお金を賭けてプレイしているような異様な臨場感が簡単に楽しめます(笑)。遊びにくいですけど(^^;)

    NoTitle

    ポーカーってこんなルールがあるんですねぇ。
    読んでるとゲームしたくなりますが…知り合いにゲーム好きな人がいないという^^;
    私も井森くんと一緒にオープン戦に参加したいなぁ。
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