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    趣喜堂茶事奇譚(うんちく小説シリーズ)

    趣喜堂茶事奇譚/セブン・カード・スタッド(その3)

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     壁の時計が七時を告げた。

     カジノのディーラーの服に着がえた捻原さんは、やせ気味のわりにはかなりの威厳のようなものがあった。

     テーブルについたのはぼくと井森と馬庭さんを含めて七人。学者ふうの暮地先生、実業家みたいな小田さん、漫画家だと名乗った倉井さん、馬庭さん以上になにをしているのかわからない樫春さん。もしかしたら本名を名乗っているのはぼくと井森だけなのかもしれない。

    「カジノの伝統に従い、ワンゲームごとにカードは使い捨てとします。いいですね? チップは手持ち六百ドル、アンティは五ドルです。上限と下限はそれぞれ三十ドルと五ドル、一回のベッティングインターバルごとに三回までレイズするチャンスがあります。誰かの手持ちのチップがなくなったところでゲームは終了、そのときにもっともチップを持っていたプレイヤーが、舞の作った新メニューの試食権を手に入れます。アンティを払えず破産したら……おわかりですね。それでは、ゲームを行ないたいと思います」

     捻原さんは慣れた手つきでカードをシャフルし始めた。洋画のカジノシーンでもめったに見られないすばらしいリフルシャフルだ。さーっとカードが滝のように流れていくのは芸術的だった。

     喫茶店の店長なんかやっているより、カジノを開いたほうがいいんじゃないかとも思えたが、さすがに違法行為はできないだろう。これでいいのだ。だいたいカジノなんかを開かれたら、ぼくも井森も店に入ること自体できないし。

     舞ちゃんが皆にサンドイッチを持ってきてくれた。酒をくれ、という人は誰もいなかった。それもそうだ。酒を飲んでのゲームプレイは、著しく思考力を低下させる。

     井森がハムサンドを手にとってかじった。

     カードが配られた。

     ぼくは自分の手札を見た。ハートのエースとキング。同じスート(スペードとかダイヤとかのマークのことだ)とは幸先がいい。表になっていたのはこれまた同じハートの3。他のプレイヤーの表向きのカードには、エースもキングも、ハートもなかった。フラッシュになるにしろ、ワンペアになるにしろ、育てがいのあるカードといえる。

     しかし、ここで大きく賭けすぎると、他のプレイヤーを警戒させてしまう恐れがある。

     ぼくは、確率が示すプレイより、少し抑え気味に賭けた。

     ポーカーは、運だけのゲームではない。ある意味、資産運用のゲームでもある。大きな勝負でごっそりチップを獲得し、つまらぬ勝負で金をすらないためには、確率論に基づく計算が必要なのだ。

     一例を挙げよう。たとえば、ぼくが手札に、ペアはないものの、スペードを四枚持っていたとする。フラッシュを作るチャンスだ。しかし、他のプレイヤーの表向きのカードに、ぼくが持っていないスペードが八枚出ていたら、どうなるか? ぼくがフラッシュを作れるチャンスは、ないわけではないが非常に少なくなる。普通だったら、降りるに決まっている。

     とはいえ、みんながみんなエキサイトしていたなどの理由で、場に積まれたチップが膨大な量だった場合は、また話が別だ。フラッシュで勝てる確率と、フラッシュを作れる確率を計算して、それよりも勝った場合に得られるチップの価値が大きかった場合、ぼくは勝負に行くだろう。

     ゲームファンの心得として、その確率の計算法は頭に入っていた(とはいえ、文系の悲しさゆえ「だいたい」のレベルにとどまっていたが)ぼくは、それを思い出しながらプレイしていった。

     その回のチップは、ぼくが取った。

     井森が、ハムサンドをかじって、うなり声を上げた。ポーカーフェイスどころではない。つくづく勝負事に向いていない男である。

     とはいえ、確率論だけでは勝てないのもこのゲームの面白いところだ。「ブラフ」があるからである。いわゆる、「はったり」というやつだ。

     ブラフというのは、自分の弱い手を強く見せて、強い手を持った相手を下ろしてしまう、というために行われるのではない。ブラフは、情報の攪乱が第一の目的である。最終的には、自分が持っている強い手を、相手に「ああ、あれははったりをかけている弱い手なんだろう」と錯覚させ、賭け金を吊り上げて、自分の強い手でごっそりとその賭け金をさらっていく、というのが理想的なパターンだ。まあなかなかそううまくはいくものではないが。

     確率に従いつつ相手のブラフを読み取り、賭け金の配分を上下させるところに、このゲームの面白さと難しさがある。

     ぼくは井森を見た。

     手札をにらみながら瞬間湯沸かし器みたいな顔をしている。

     まあああいう楽しみ方もありだけど。

     ぼくの見るところ、学者ふうの暮地さんは、ちょっとプレイが堅すぎて、なかなかチップが貯まらない、というところだ。実業家ふうの小田さんは、プレイが奔放すぎて、取るものも多いが出るものも多いというパターン。漫画家の倉井さんは、締め切りが迫っているところを抜けてきたのか、ちょっと集中力に欠けたところがあった。職業不明の樫春さんは、悲しいくらいにツキがない。井森は……問題外。

     三時間ほどプレイをしていると、大勢が見えてきた。

     いつの間にか、場のチップは、ぼくと馬庭さんのもとに集まりつつあった。

     これはほんとうにいけるかもしれない。

     馬庭さんさえなんとかできれば。

    「くそっ、破産だ!」

     何回目のプレイになったかわからないが、最初の賭けのタイミングで、井森がカードを伏せて天を仰いだ。

     最終決戦ということだ。

     ここで馬庭さんさえ倒せば……。ぼくは興奮してくるのを覚えた。

    (この項続く)
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    ~ Comment ~

    Re: ねみさん

    図も作りたかったのですが、デザインセンスがゼロなのでなかなか(^^;)

    やればすぐに飲み込めると思うんですけどね。

    あっ現金を賭けちゃダメですよ(^^)

    NoTitle

    難しいな。
    やっぱりカードゲームのルールは複雑です。

    図なんかないですか?(あるわけないだろ

    Re: 矢端想さん

    昔の西部の酒場でやっていたのはドローです。スタッドポーカーが発明される前は、ポーカーといえばドローでした。

    ドローポーカーの欠点は、「相手が捨てたカード」にしか、相手の手をうかがい知るための手段がないことです。ドローポーカーは、まず、五枚配って、それをプレイヤーが見て、その段階でまずお金を賭けます。その後「カードの交換」があり、その後で、相手の賭け金や捨てたカードを参考にしながら、またお金を賭けます。この「2回の賭けのチャンスの存在」をたいていの日本人は知らないため、「ポーカーは運のみのゲーム」という誤解がまかり通ってしまったのでしょう。また、ポーカーのルールは、やったことのない人にはなじみのない専門用語が頻出し、「本を読んだだけではどうやるのかわからない」ことが多いのも、プレイヤーを少なくする要因になっていたと思います。

    また、カジノで知らない人間とドローポーカーをするのは怖い、というイメージがついてしまい、カジノでポーカーは日陰に追いやられてしまいました。

    今では、「テキサスホールデム」や「オマハ」といった魅力的なゲームの登場と、カジノ側も明るく楽しいポーカーのイメージを後押ししたこともあって、ポーカーは再びカジノでの人気を取り戻しています。

    このあたりのことについては、この道の泰斗である松田道弘先生と、谷岡一郎氏の共著「カジノゲーム入門事典」が、わかりやすい文章と明確なルール説明で親切丁寧に教えてくれています。この本は、ポーカーのほかにもルーレットからバカラからクラップスからブラックジャックから、聞いたことのないようなゲームまで、さまざまなゲームを親切丁寧に教えてくれるので、それをひとつひとつ読んでいくだけでも楽しいです(^^)

    わたしの行きつけの図書館にあったので愛読していましたが、今でも廃棄処分にならずに残っているかどうか……。

    NoTitle

    > ドローポーカー
    > スタッドポーカー

    昔の西部の酒場なんかでみんながやってたのはどちらなんでしょう。あまり意識して映画など観たことがない。

    ともあれ、奥が深いのにシンプルで勝負が早いこういうゲームは好きです。(複雑なゲームはルール覚えるのが億劫。長時間のゲームは緊張感が持続しない。すべて脳みその容量のせい)
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