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    趣喜堂茶事奇譚(うんちく小説シリーズ)

    趣喜堂茶事奇譚/セブン・カード・スタッド(その4)

     ←趣喜堂茶事奇譚/セブン・カード・スタッド(その3) →ある毛虫の昔話
     チップの状況を、ぼくはすばやく暗算した。七人全員で四千二百ドルのチップのうち、まず井森が脱落でゼロ。樫春さんが五十ドル。倉井さんが百ドルちょい。暮地さんと小田さんが、仲良く五百ドルずつくらいだろう。そして、ぼくが千五百ドルちょうどだから……馬庭さんは千五百五十ドル。僅差だが、舞ちゃんの新メニューを食べられるのは一位だけだから、なんとしてでも馬庭さんを五十ドルまくらなくてはならない。

     ぼくはテーブルの中央の賭け金を見た。井森はどうだか知らないが、ほかのプレイヤー全員が、ぼくと同じ結論に達したようだった。

     そして……ぼくにとって運のいいことに、今日はついてないと判断したのか、他の面々はお義理に必要最低限の賭け金を出して、最初の賭けの段階で、早々に降りてしまった。

     場には、ぼくの出した分も含めて、百ドルが残った。

     馬庭さんとぼく、どちらかこの場の賭け金を勝ち取ったほうが優勝だ。

     ということは、完全に「運」の勝負になる。

     まだ、表向きのカードは互いに一枚。

     ぼくの手はスペードのクイーンとクラブの10。表のカードはスペードの9だ。

     馬庭さんの表向きのカードはダイヤの10。

     カードが配られた。

     ぼくの前にスペードのジャックが、馬庭さんの前にハートの10が配られた。

     馬庭さんが先に賭ける。

     とはいえ、後は両者ともチェックを繰り返すだけだが……。

    「ベット。三十ドル」

     馬庭さんが口を開いて、チップを押し出した。

     ぼくはちょっとびっくりした。

    「コール」

     ぼくもチップを押し出す。

     全員が、ぼくと馬庭さんのカードを真剣に見つめていた。

     巌流島の武蔵と小次郎になった気分である。どっちが武蔵でどっちが小次郎かは、終わった後にしかわからないが。

     またカードが配られる。ぼくの前にスペードのキング、馬庭さんの前にはダイヤの7。

     ぼくはどきどきしてくるのを覚えた。この手は……。

    「ベット」

    「コール」

     落ち着け。ぼくは冷静さを取り戻そうとした。こういう状況では、冷静になっていないと幸運の女神が逃げていく。

     特に、ストレート確定で、あわよくばストレートフラッシュか、もしかしたらロイヤル・フラッシュができかかっているとあったらなおさらだ。

     馬庭さんも焦っているらしい。ちょっとカードを握る手が白っぽくなっている。

     まさか、ぼくの手からストレートができていることに気づいたわけではないだろうが。いや、それを予見してのかすかな恐れはあるかもしれない。

     馬庭さんにはハートの2が配られ、ぼくの前にはクラブのキングが配られた。これでロイヤル・フラッシュは潰れたわけだが……。

     スペードの10さえ来ればストレートフラッシュだ。

     ぼくは震えそうな声でいった。

    「ベット。三十ドル」

    「コール」

     最後の一枚が配られた。願いは半分しかかなわなかった。スペードの8。

     それでもフラッシュだ。

     ぼくは唇を舌で湿らせるといった。

    「ベット。三十ドル」

     向こうから売ってきたケンカだ。こっちも買うのが筋だ。

    「コール」

     馬庭さんは答えた。

    「ショウダウン」

     ぼくは手札を見せた。

    「スペードのキングのフラッシュ」

     フラッシュという役は、いちばん大きなカードを持っていた人間のほうが強い。

     ぼくは吐息をついて、額を手の甲でぬぐった。

    「学生さん」

     馬庭さんはぼそりといった。

    「世の中にはこういうこともある」

     馬庭さんは最初から持っていたカードを開いた。

     ハートの7と……スペードの10。

     呆然として口もきけないぼくの前から、馬庭さんはチップをさらっていった。

    「10と7のフルハウスだ」

     ぼくは、テーブルに突っ伏した。フラッシュよりはフルハウスのほうが強い。

     負けた……。

    「優勝は、馬庭さんです!」

     ぼくを除くみんなが拍手した。ぼくはといえば、精魂を使い果たして倒れるだけだった。



     ……………………



    「頼む。一緒にこいつを食ってくれ」

    「やだよ」

     泣きそうな顔の井森に、ぼくは冷たく答えた。

     結局、勝者の馬庭さんの前に持ってこられたのは、「ヘミングウェイ風そば粉パンケーキ」だった。ヘミングウェイの小説に出てくる、そのままのレシピだ。しかしそれだけではあまりになんなので、舞ちゃんのアイデアで、中華風の具材をはさんだらしい。

    「……うん。うん。これはいけるな。いけるけど、おれは普通にリンゴジャムとメープルシロップで食べたほうがうまいと思う」

     馬庭さんは、舞ちゃんの自信作を食べながら、いつもの渋い表情を崩さずに勝手なことをいっていた。

    「しかしツイスト博士」

     井森は、涙をこらえた目で捻原さんを見た。

    「ヘミングウェイの小説に出てくるアメリカ人ですら作れるこの料理を、どうやったらこんなふうに作れるんですか。おれ、高校で読書感想文書くために読んだけど、あれの作り方って、基本的にそば粉を水で溶いてフライパンで焼くだけでしょう」

     そう。井森の前には、料理オンチの捻原さんの『特訓の成果』が、大皿に山と積まれていたのだ。堅すぎたりぼそぼそしたりしている失敗作のそば粉のパンケーキ。

    「大丈夫ですよ。リンゴジャムもメープルシロップも、きちんと買ったのがありますから」

     舞ちゃん、それはキラーパスだぞ。

    「うう。そうですね。そうですね。げーっぷ」

    「じゃ、ぼくたちは帰るから。後は任せたサンダース」

     涙を流しながら『敗者のノルマ』をこなす井森を残して、ぼくや暮地さんたちはそれぞれの道を帰っていった。

     月曜日に大学で会ったとき、やつは、「二日分の食費が浮いてラッキーだった」、とぼくにいった。

     負け惜しみはやはりカッコ悪いものである。

    (この項終わり)
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    ~ Comment ~

    Re: 秋沙さん

    ギャンブルは「遊び」と割り切って、「儲けよう」などと考えないほうがいいですね。身を持ち崩すので。

    インディアンポーカーをガラス越しに行って、相手がいつイカサマに気づくかを当てるロシアンルーレット的な遊び方も……ないな。

    そうだ後で「ごきぶりポーカー」の話も書こうっと。

    Re: 矢端想さん

    フォーカード、見たことないですねえ。

    ストレートフラッシュ、見たことないですねえ。

    ロイヤル・フラッシュ、見たことないですねえ。

    麻雀の九連宝灯なみに難しいんじゃないかなあ。交換抜きだと……。

    「人生はポーカーのゲームに似ている。
     大事に考えるのはバカバカしい。
     大事に考えないと危険である」

     ……芥川龍之介(うそ)

    NoTitle

    最近こういうゲームをとんとやらないもんで、ドローポーカーですらルールが危なかった私です(^^;
    スタッドポーカー、初めて知りました(^^;

    なんにせよ、賭け事がまるっきり弱い私。駆け引きができないんだよなぁ。
    あ、インディアンポーカーは好きです。あれ、ほんと間抜けすぎて笑っちゃって賭け事どころじゃなくなっちゃうんですけどね(^^;

    NoTitle

    そうだ、なんかフルハウスってすぐできそうなイメージあるけど、フォーカードの次に強いんですもんね。そりゃそうだよ。

    映画「マーヴェリック」の「フォーカード」に「ストレートフラッシュ」さらに「ロイヤルフラッシュ」で勝つという「あり得ないポーカー」をぜひご覧あれ。


    ともあれ、人生掛けたハードボイルドだろうが、お遊びだろうが゛、大して変わりはない、というのが僕の感覚ですが・・・だって人生なんてヨッパライ同士のポーカーゲームみたいなものじゃん。

    ・・・その感覚って、おかしい?

    Re: llamaさん

    喜んでいただいてありがとうございます。

    本を読んで面白そうだと思って、周囲の人を誘ってやってみたら面白かったのでついついこんなトリビア小説を(^^)

    ポーカーフェイスは日常生活でも使いますよね。(そうか?)

    平穏な社会生活を送るために必要不可欠な技能です(嘘)。

    NoTitle

    あぁ、面白かった!
    読みながら、一緒にゲーム(真剣勝負?)してました。
    私はごくごく一般的なポーカーしか知らなかったのですが、この方が遥かに勝負感があります。
    とっても楽しかった♪

    あ、因みにわたくし、ポーカーフェイス上手いんですよ~(笑)
    にこやかに微笑みながら、怒れる人です・・・嘘ですけど。

    Re: ぴゆうさん

    >豆

    雲の上まで伸びて巨人の家へ(^^)

    NoTitle

    当分、絡めそうないからショートショートに行くずら。

    豆は元気良く育っているよ。
    なんか楽しみになってきた。
    v-16

    Re: limeさん

    はい確率論です。

    麻雀みたいに、「無限に交換できる」システムのポーカーでは、フルハウスは出やすいのです。ペアを取っておけば、いつかはそろいますから。

    でも、一回だけ交換とか、このような交換不可のスタッドポーカーでは、確率的にストレートのほうがはるかに出やすいです。現にフルハウス作ったことないもんなわたし(^^;)

    絵が描かれたダイスを振ってやるポーカーゲームもありますが、それはまたいつか書きます。そちらではフルハウスは当たり前のように出ます。気分爽快(笑)

    ツイスト博士に料理を覚えてもらって、独り立ちしてもらわなければ、舞ちゃんお嫁にいけないではないですか(笑) ←なんだこの理屈(爆)

    Re: 才条 蓮さん

    ハードボイルドなギャンブルシーンが描ければ楽しいんですけど、そうもいかなくて(^^;)

    なにせ素人が人生ゲームのお金をかけて遊びでやっている印象をもとに書いた小説ですから、その筋の人が見れば噴飯ものだろうと思います(^^;)

    とはいえ色川武大先生みたいな人生を送れるほどの根性はないし(^^;)

    ゲームで遊ぶのは好きなんですけどねえ。

    NoTitle

    私もけっこう、フルハウス、よく出してましたね。
    あ、と思ったら、揃ってて。
    フルハウスがストレートより強いって言うのは、小学生ながら不思議だなあと思ってたんですが、確立論でしょうか。

    なかなか緊張感漂うゲームでした。
    ポーカーって、ルールがシンプルだからこそ、勝つためにはいろんな要素がいるんですねえ。
    計算の苦手な私が、弱いはずだ・・・。

    で、何度も言うように、ツイスト博士は、料理させないほうがいいと思う。

    NoTitle

    おお、新作ですね。今度はポーカーですね。こういうハードボイルドなのは好きですね。ハードボイルドかどうかは分からないですけど。ポーカーの緊張感が出ていていいですね。ゲームにしても賭けごとをしないので、その緊張感が伝わっていいですね。
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