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    趣喜堂茶事奇譚(うんちく小説シリーズ)

    趣喜堂茶事奇譚/深く静かに沈没せよ!!(その1)

     ←ある毛虫の昔話 →趣喜堂茶事奇譚/深く静かに沈没せよ!!(その2)
    「『亡国』『スパイ』『売国奴』という言葉の使用頻度はほんものの亡国への進行度合いを示すバロメーターだ……」

     バイト帰りの夜。ぼくは、ヒステリックな声の演説者を乗せた街宣車を、苦虫を噛み締めたような顔で迂回しながら井森につぶやいた。

    「その左右や思想信条を問わず、ある程度の力を持った過激な意見はたいがい穏健な意見を圧殺してしまう。そして、気がついたときには、坂を転がる雪玉みたいに過激な意見がその勢力を増し、ぼーん。どこかぶつかりやすいところにぶつかって、派手にぶっこわす。ぶつかった相手もぶっこわされるが、雪玉のほうもぶっこわれる。シミュレーションゲームをやるために歴史の本を読んでれば、誰にでもよくわかる人間精神の行動パターンだ……」

    「疲れてるんだよお前。日ごろから変な本ばかり読んでるからだ」

    「疲れてるだけならいいんだが」

     ぼくたちの足はいっぽうに向いていた。

    「もし、そういう過激意見が大勢を占めるようになったとき、最初に犠牲になるのは、ぼくが大好きな、ゲームであり、ミステリであり、SFであり、……およそそういったものだ。過激なおかたには、そうしたものが、システムの整然とした進行を邪魔するものにしか見えないらしいからな。前にNHK教育の番組で、ゲームを特集したときに、ゲストで来ていた教育者としても高名な数学者の先生が、『こんなの無駄にしか思えませんけどねえ』といったことを、ぼくははっきりと覚えている……」

    「ほんとに疲れてるなお前」

     ぼくたちは、「趣喜堂」の前に来た。井森は、ぼくの肩をばん、と叩いた。

    「今日は、ゲームも本もなしだ。舞ちゃんの料理を食って、漫画でも読んで、すかっとした気分で憂さを忘れちまえ。なっ!」

    「そうするよ」

     ぼくたちは、いつもながら建てつけの悪い扉をがらんがらんと開け、中に入った。

    「いらっしゃいませ」

     舞ちゃんが出迎えてくれた。井森がどんな顔をしているかは、見なくても想像がついた。

    「いつものカフェオレ」

     ぼくは、ゲームテーブルの席に腰掛けて舞ちゃんに注文した。

    「それと、なにか腹にたまる……壁のメニューにある、オムライスって、できる?」

    「できますよ」

    「じゃ、それ」

     ツイスト博士こと、捻原さんは、手元でなにかのイラストが描かれたカードをひねくっていた。「クク」だろう。

    「学生さん、浮かない顔をしていますね」

    「ちょっと人生に疲れて」

    「おいこらお前」

     井森が、ぼくの額に手を当てた。

    「平熱だなあ」

    「当たり前だよ」

     ぼくたちを微笑みながら見ていた捻原さんは、カードをさっと扇状に広げた。

    「やりますか? 『クク』ですが」

    「今日はけっこうです。そのゲーム、ある程度人数がいたほうが楽しいですからね」

    「それじゃ、なにかお持ちしましょうか」

     捻原さんは立ち上がった。

    「お願いします」

     ぼくは、ちらりと考えた。

    「ギャグマンガください。もう、壮絶に笑えるやつを」

    「あっ、おれはいつもの西風さんのマンガのうちで、読んでないやつね」

    「かしこまりました」

     やがて、捻原さんは、ぼくと井森に本を持ってきた。井森がなんの本を読んでいるのだかはよくわからなかったが、ぼくの手元に来た本は。

    「『深く静かに沈没せよ!!』……?」

     副題がふるっている。「ああ栄光と愛と正義と平和と自由の戦死たち」

     ミリタリーギャグマンガらしい。

     作者は、おおのやすゆき……ああ、「That'sイズミコ」と「精霊伝説ヒューディー」の大野安之先生か。協力の、大滝よしざえもんという人はよく知らないが……。

     ぼくはページを繰った。

    (この項続く)
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    ~ Comment ~

    Re: 才条 蓮さん

    わたしがここで取り上げているゲームは、完全に30代以上の人間向けです。

    なにせ電源不要ゲームですから(^^;)

    第一次のブームめいたものがあったのが80年代半ばでしょうか。普通にデパートのおもちゃ売り場で、今はマニア向けのホビーショップでしか手に入らないようなハードなシミュレーションゲームが売られていましたからねえ。

    隆盛を極めたボードゲームは、その後完全に、ファミコン以降のコンシューマーゲーム機に駆逐されてしまうのですが、その「モヒカン族の最期」みたいな歴史は未だに語るのがつらいであります(T_T)

    最近になって「コマンドマガジン」だの「ゲームジャーナル」だのの精力的な活動で復権してきたみたいですが、専門店でしか売っていない一冊3000円以上する雑誌なんてそう簡単に買えるわけないだろ(笑)

    うーむこれもクーンのいうところの「パラダイム」というやつか(^^;)

    NoTitle

    今の人と30代以上の人とでは大分ゲームに対する価値観が違うと思いますよ。30代以上の人の方はあまりゲームが家庭に普及してなかったですからね。その方々がゲームについて語るのと、それ以下の人がゲームを語るのでは意味合いが違ってきますからね。
    今の人たちが大きくなって50,60代になるとゲームの地位がまた変わっているかもしれませんね。
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