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    ささげもの

    黄輪さんお返し趣喜堂!(その3)

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    趣喜堂茶事奇譚・特別編/山猫の夏(その3)

     カイピリンガはうまかった。結局、ぼくには砂糖抜きのカイピリンガはきつすぎて、舞ちゃんに頼んでガムシロップをもらったのだが。

     こんなものを一気飲みするというのは、さすがに小説の中の『山猫』はすごい男だなあ、と思いながら、ぼくは井森に『山猫の夏』のストーリーを講釈していた。

    「……でだ、でだでだでだ、そのエクルウという町では、アンドラーデ家とビーステルフェルト家というふたつの家が、長年争っていたんだ。そんな中に、アンドラーデ家の御曹子と、ビーステルフェルト家のご令嬢が、手に手を取って駆け落ちを実行したんだ。両家それぞれに、追跡隊が組織された。そのビーステルフェルト家側の隊長として招かれたのが、『山猫』というわけだったんだ」

    「ロミオとジュリエットか」

     ぼくはカイピリンガを口に含んで、講釈を続けた。なにかやっていないと気が狂いそうだったからだ。

    「普通だったら、ロミオとジュリエットの話だけで最後まで持たせるわな。しかし、『山猫』には、隠された目的があったんだ。もっとでっかいものをいただくってな。バーテンダーの『おれ』をスカウトして追跡隊に加えた『山猫』は、『おれ』に追跡隊の他のメンバーの動向を探るように命じる。追跡隊のメンバーのひとりひとりが、いざとなったら裏切って、賞金を独り占めすることを考えるようなやつばかりだからだ。『山猫』は、『おれ』が日本語を話せることを知っていて、スパイとしてスカウトした、ということなんだ」

    「それでどうなる」

    「『山猫』は、対立するアンドラーデ家が組織した追跡隊のリーダーが、自分の宿敵であることを知るんだが……ここから先は自分で小説を読んでくれ。徹夜ものだぜ」

    「なかなか面白そうじゃないか」

    「だろ? 誰だっけか、知り合いの知り合いのブログ作家には、この設定をほぼそのままいただいてファンタジー小説を書いたやつがいるそうだが、どうも元ネタよりも面白くはならなかったらしい」

    「そりゃそうだろ。プロとアマチュアだもんな」

     井森は、カイピリンガを飲み干すと、虎女を見た。

    「見たかあのペース」

    「見た見た」

     ぼくはうなずいた。

    「えらいペースだ。ピンガの瓶が、一ダース空になっちまった。よくもまあ、つまみもなしにあれだけ飲めるものだ」

    「舞ちゃんが、棚からサラミソーセージを出したぜ」

     サラミはぼくの好物だ。

    「スライスしてくれるのかな」

    「いや、見ろ。皮をむいて、直接ごろんと一本、あの虎女に」

    「くそっ、あの虎女、焼き芋かなにかのように、ワイルドに食いやがる。ぼくにも少しよこせ」

    「じゃ、お前交渉してこいよ」

    「できるかよそんなこと」

    「いや、お前哲学科だろ。ソシュールの『一般言語学講義』を読んだはずだ。だったら交渉できる」

    「無茶いわんでくれ」

     その後も、虎女はソーセージからチーズからさきイカからくんせい卵からがつがつとむさぼり食った。挙げ句の果てには舞ちゃんは、秘伝の生ハムまで出す始末。メニューに書かれた値段を見て、ぼくと井森があきらめていた食材である。

    「あっ、くそっ、おれにも少し……少しでいいからくれっ」

    「あきらめろ、井森、耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍ぶ、これが日本人の道だ」

    「玉音放送の話なんかしてないっつーの」

    「じゃあ、お前、あの食欲と腕力の前に交渉に行くか?」

    「ふたりで行かないか」

    「言葉が通じないのは同じだ。犠牲者数が増えるだけだと思う」

     無念の涙を流すぼくたちの前で、みるみるうちに酒が飲まれ、二ダースの瓶が入っていたはずの木箱は、すっかり空になってしまった。

     舞ちゃんが、真っ青な顔になった。

    「どうしよう。お父さん、もうお酒がないわ」

    「大丈夫だ」

     虎女は、テーブルに突っ伏すと、盛大ないびきをかいて眠っていた。

    「今のうちだ。君たちも、舞も、この場から逃げなさい」

    「お父さんは!」

    「わたしは、とりあえず、警察に電話をかける。引き取りに来てくれるだろう。それにしても、これだけのピンガをまったく……底なしだなあこの娘」

     いい考えもなかったので、ぼくたちは外に出ようとした。ふと、振り返ると……。

     さっきまで寝ていたはずの虎女は姿を消していた。

     かわりに、床に、なにかが落ちていた。

     ぼくは拾い上げた。

    「財布みたいだな……」

     紐を解くと、中から出てきたのは。

     ぼくたちは、目もくらむような光に驚いた。

    「金貨だぜこれ」

     井森が畏怖したようにいった。

    「ツイスト博士、ピンガって、ひと瓶いくらなんです」

    「日本では、輸送量込みでだいたい千円だよ。ブラジルではもっと安い」

    「二十四本飲んだから、二万四千円というところですか。この金貨、どう見ても、一枚十グラムはありますから……今、金って、グラム三千九百円ってところですから、手数料入れても、一枚でお釣りがきますよ。それが六枚も」

    「どうしよう……」

     舞ちゃんがつぶやいた。答えるものは誰もいなかった。

    (この項続く)
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    ~ Comment ~

    Re: 矢端想さん

    大人になってバーに通えるようになったら、中学高校と愛読した冒険小説に出てきた酒をがんがん飲んでやるぞ~、などと思っていたら、大学在学中に慢性の病気になってしまい、それ以来ジュースと烏龍茶とアイスコーヒーばかりです(T_T)

    薬さえ飲んでなければうううううう(T_T)

    今週のプリキュアまだ見てません。王子先輩は誰とくっつくんだろう(棒読み)

    Re: limeさん

    平井和正先生の『ウルフガイ』には、虎4というコードネームの、ものすごい美人の虎女が出てきます。口が悪くて姐御肌な、魅力的な登場人物だったのですが……「狼のレクイエム」読みたい(^^)

    黄輪さんのこの虎女は……黄輪さんの小説をお読みになればわかりますが、コメディリリーフ担当、みたいなかたなので。

    まさか途中で死んだりしないよなあ……。

    NoTitle

    ピンガ飲んだことないです。機会があればバーで聞いてみます。

    最近飲みに行く回数は減りましたが、家でバーボンが週一本ぐらいのペースで空くのでビンがたまって仕方がない・・・。

    今日の「スイート~」話自体はしょうもなかったけど、バナナの皮が突然現れて転ぶとか、ディテールがちょっとうれしかったw 僕はプリキュアより人間姿のセイレーン様が一番イイなあ・・・彼女も猫女・・・あっ、関係ないハナシ?失礼しました!

    NoTitle

    『山猫の夏』も気になるけど、この虎女がもっと気になります・・・。

    最近、虎に憧れて顔を虎に成形した外国の男の人の番組を見たので、その顔ばかりが頭に浮かんで仕方ないです。
    人間が虎に成形しても、カッコよくないなあと思いましたね。
    (話がそれちゃって申し訳ない)
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