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    「ショートショート」
    ミステリ

    裏切り者の弁

     ←神の審判 →スキンシップ
     恐ろしい人であった。
     今にしてわたし、イスカリオテのユダは思う。わたしがこう思う対象は、むろん、わが主イエス様のことである。
     なにが恐ろしいか。その、人を裁くことに痛烈な喜びを感じる趣味嗜好だ。
     そういうと、人は驚くかもしれない。イエス様は、人を裁くなといったはずではなかったのか、と。
     その通りだ。復讐するは我にあり。その言葉に間違いはない。
     しかし、その言葉をよく考えてほしい。復讐し、人を裁くのは、人ではなく神だ。だが、イエス様は神の子なのである。神の子は神の代理人として人を裁いてなにもおかしくはない。すなわち、イエス様の行われたことは、地上の審判権を全て取り上げ、ご自身ひとりに集約せしめた、ということにある。そしてイエス様は、その審判権をもとに、既存の秩序の顛倒にかかったのだ。
     ここまでは、わたしもなにも恐ろしくはない。わたしがイエス様でも、そのくらいのことはやるだろう。そうでもしなければ、世界を変え、救うことなどできはしないのだから。
     わたしがイエス様に対して、心から冷水を浴びせかけられたように思ったのは、あのときだ。


     いったい誰が、イエス様を権力に売ったのかはわからない。わたしではないのは確かだ。おそらくは、イエス様の世界顛倒におののいた、他の誰かだろうが、今となっては信じてくれるものは誰もいまい。
     わたしが、イエス様の処刑を聞いたのは、イエス様にいわれてその場を離れていたときだった。
    「それで、イエス様は最後になんといわれてこの世を去られたのだ」
    「『エリ・エリ・ラマ・サバクタニ』だよ」
    「エリ・エリ・ラマ・サバクタニ!」
     異邦人のかたがたにはなんのことやらわからないと思うから訳すると、これは「主よ、主よ、どうしてわたしを見捨てられたのですか」という意味だ。
     わたしは、このときほど、イエス様が恐ろしくなったときはない。
     イエス様は、この言葉で、全世界の人間を断罪してしまったのだ。
     そのときの、イエス様の内心の快哉が、わたしには目に浮かぶようだ。神の子をも見捨てられた神が、どうしてほかの人間まで見捨てずにおれようか。この断罪は、わたしと行をともにしてきた仲間や、イエス様を信じた、マグダラのマリアやそのほかの罪もない人々に対する、裏切り以外のなんでもない。
     わたしは、イエス様のそのような勝手ななさりようを、許しておくわけには行かなかった。
     わたしが行ったことをくどくど説明するのは興がそがれるだけだろう。わたしは、イエス様の墓を掘り返し、死体を他の場所に隠して、復活の奇蹟を演出した。これにより、神はイエス様を見捨ててはいなかったことになり、もちろん全人類も見捨てられなかったことになる。
     これが、彼らに対するわたしの責任だ。
     もうひとつやることがあった。同志たちにこんなペテンを働いてしまった以上、わたしはとても顔を合わせることができない。そのようなわけで、わたしは自分で、イエス様を売り渡した裏切り者の男という汚名を着ることにした。状況証拠はいくらでも作れる。わたしが祭司長たちから銀貨を受け取った、などという噂を流すのはどうだ? 後は噂に次から次へと尾ひれがついていくことだろう。
     どうしてこんな汚名を着るのかって? それは簡単なことだ。あの(衆人の目には)無垢なるイエス様を、自分の意志で断罪した男がいるということを、世の終わりまで伝えてもらう。それが、このわたしが意地を見せる唯一の方法だからだ。
     善は悪になり、悪は善になる。そして悪名もまた。
     わたしはイスカリオテのユダ。裏切り者の王様。なかなか味な名前ではないか?
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    ~ Comment ~

    >トゥデイさん

    ははあ、なるほど。おおつぼマキの「Mr.シネマ」で、主人公の倉口がイエスのコスプレをしていたので、てっきりイエスが主役だと思ってました。
    レンタル屋に行って見てみようかなあ。その前に、レンタル屋にあるかなあ。
    情報ありがとうございました。

    観たのはその「ジーザス・クライスト…」ですよ。ジャポネスクバージョン。
    元々作曲家の「ユダは今まで正当な扱いを受けていなかったのではないか」というロックな発想から生まれたミュージカルなので、どちらかというとユダ主役なのです。
    日本版演出だと更に主役っぽいのです。

    >トゥデイさん

    たしかにユダはロックミュージカルの主役にはぴったりですね。
    でもあの時代背景を考えると、キリストのほうがロックミュージカルの主役のような気がします。権力と社会通念に反抗して、最後には死刑になっちまうんだからすごい男ですね。そういや「ジーザス・クライスト・スーパースター」なんてミュージカルもあったな。
    そちらのユダもどんな性格していたのか気になります~♪

    先日、ユダが主役のロックミュージカルを見たので、とても興味深く読めました。
    21世紀に甦ったユダが、キリストに何故あんな事をしたんだと語りかける歌がテーマ曲だったので、
    ちょっとユダの性格は似てますね。

    >Thomerthさん

    謎が解けたって、歴史ミステリとしてヨタ書いただけですから(^_^;)
    ダ・ヴィンチ・コードの真似まではさすがにできませんでしたなあ。あれくらい信者のかたを怒らせることができたら作者冥利に尽きるでしょうなあ(憧れの目)

    伝道者は二年間の布教期間に、
    弟子に向けて「あなたたち(弟子)は、」ヒト(弟子以外の普通の人々に)「かくあるべし」と語りましたねー。
    なかでも、イチジクの木や、特定の街を呪う話しや、
    イスラエルに入市して大暴れした話しが、
    ありがたい話しとして
    わざわざ収録されて後世に残されているのは
    とても興味深いですね(笑)

    その逸話を忘れなかった弟子達が
    師匠の死後にそれぞれアンソロジーとして書かいたものを更に後世に編纂。

    俄然、謎は深まるばかりです。

    ひとつ、謎が解けました(笑)
    ユダ周辺には、大いに謎がありそうなので☆
    面白いですね(笑)
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