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    「ショートショート」
    ホラー

    青色の悪夢

     ←「書きながら考える」について →卯月朔さん挑戦返答!!
     医学部准教授を目指しての論文を書き上げて保存した後、机でパソコンに向かってうとうとしていたら、死んだ織枝の夢を見た。

     織枝は一年前、睡眠薬を飲んだままで車を運転し、高速の中央分離帯に突っ込んだのだ。

     お腹にはぼくとの子供がいた。どこか心の弱い女だったから、子供の存在はストレスだったのかもしれない。

     ぼくは、消し忘れたパソコンの電源を切り、青い光の中、あくびをして水かなにかを飲みに台所へ行った。



     数日後、パソコンの前に座っている自分に気づいた。

     その日はバーでしたたかに酔っ払って帰ってきたのだ。

     真っ暗な部屋の中、起動を告げる青っぽい光だけがまぶしかった。

     酔っ払って電源を入れてしまったらしい。

     ぼくは、終了オプションをクリックし、電源を切った。

     着がえてベッドに潜り込んだほうがよさそうだ。



     目が覚めた時、ぼくはパジャマ姿のままキーボードを叩いていた。

     メールボックスが開いていた。

     ぼくは自分がいま打ちつつある文面を見て、凍りつくような感覚に襲われた。

     しかしそれでも、指はキーボードを打つのをやめなかった。

     文章はこう始まっていた。

    『染谷捜査一課長様。

     もう耐えられません。

     ぼくは、かねてから、不眠を訴える織枝に、睡眠薬を与えてきました。

     やがて生まれてくるだろう子供の健康な出産のためには、よく寝ることがいちばんだと説き聞かせたのです。

     しかし、ぼくが与えていたのは、プラシーボ、偽薬でした。

     織枝の不眠がよくなるわけがありません。

     織枝に気づかれたら、母体を気づかって、薬害が及ばないようにするためだ、と弁明するつもりでした。

     だが、ぼくには、別の計画があったのです。

     ぼくは、短気な性格の織枝に飽きていました。別れ話をしようにも、それにはお腹の子供が邪魔でした。

     ぼくは考えました。織枝に偽薬を与え続けていれば、あまり効かないことに苛立った織枝は、不眠による不快感も手伝って、手渡されたらすぐに飲んでしまうだろう、と。

     もしうまいタイミングで、睡眠薬慣れしていない織枝にいきなり、牛をも眠らせるような強力な睡眠薬を与えることができれば……。そして織枝がそれを自動車で帰る前に飲めば……。

     あとは警察のかたの考えるとおりです』

     ぼくは、かたかたとキーボードを叩き続ける自分の指の動きに呆然としていた。

     ぼくの指が、かちり、と送信ボタンを押した。



     ぼくは考える。織枝の死体はすでに荼毘に伏されてしまったし、安易に睡眠薬を飲んだ末の事故として処理されている。ぼくが逮捕される心配はなにもない。織枝がプラシーボを飲んでいたことを立証するのは不可能だろう。証拠はなにもないのだ。

     ではなぜ、ぼくの手は、ペーパーナイフを握っているのだ?

     パソコンでメールをやりとりするようになってから、使うこともなく埃をかぶっていたペーパーナイフを?

     ぼくは手のひらにじっとり汗をかいている。

     パソコンの画面だけがまぶしい光を放っている……。

     正気を失いそうなまぶしい青い光を。
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    ~ Comment ~

    Re: あかねさん

    おっ、ブラウンファンですか。実はわたしもで、これはブラウンへの敬意でつけたタイトルです。

    「悪夢」シリーズでは、「灰色の悪夢」が好きですね。なんでもない日常のひとこまなのに、読後ほんとに背筋が寒くなります。あれが一番怖かったなあ。

    フレドリック・ブラウン

    私の大好きなブラウンに、同名の小説がありますね。
    内容は忘れてしまいましたけど、なつかしい感覚で読ませていただきました。

    淡々とこわ~い内容でした。
    短篇でこんなふうにまとめられる才能、敬服してしまいます。

    Re: HAIBYさん

    はじめまして。

    わたしも切れ味の鋭いホラーショートショートが好きで、いろいろと書いているのですが、なかなか怖い作品は書けませんね。

    難しいです。

    こちらも勉強の最中ですので、お互いに魅力的なホラーが書ければいいですね!

    NoTitle

    ホラー六作品一気読みさせて頂きました。想像力を煽り、恐怖心を増長させる手腕は素晴らしいと思いました。とても個性的で面白かったです♪勉強させて頂きました。ありがとうございました。

    Re: ねみさん

    ご友人のご冥福をお祈りいたします。

    わたしの作品がいくらかねみさんの心の支えになってくれれば幸いです。

    もうなんとお言葉をおかけしたらいいか。

    NoTitle

    最近、親友が死んだせいか
    こういう話が心に来ます。

    なんでかなぁ・・・。
    泣き虫だな、俺も。

    Re: 矢端想さん

    まあ、できちゃうときはできてしまいますけど、

    どうやってもできない人間、というのも中にはおります。

    体質じゃないのにどうやってもできない人間、というのも中には(以下略)

    NoTitle

    自業自得だ。
    なんで世間にはできちゃうかもとわかってることをわざわざやる男が多いのだろう。できるときは本当に簡単にできるのだから。
    (友達に「気づいたら外れてた・・・」という奴もいましたけど。あと「女の陰謀」という場合も少なからずあると思います)

    いや、物語の趣旨はそこではなかったですね・・・。

    正直わけわかんないけど、
    こういう「精神錯乱系」は嫌いではないです。(←自分が「錯乱系」)

    Re: ぴゆうさん

    どこからも同情の余地のない卑劣な男、というのが書きたかったのもありますね(^^)

    連城三紀彦先生の小説の一編に影響されたのですけど。

    そいつが、「自分でもなんだかわからない理由」で破滅への道を転がり落ちていく様を凝縮できたら面白いかな、と思って書いた側面もあります。

    主人公の「自分でもなんだかわからない状況」をクローズアップしたいと思ったので「ホラー」に入れましたが、読んでも怖くもなんともないので(笑)「ミステリ」に入れたほうがよかったかもしれません。うむむ。

    Re: limeさん

    もうひとつの自分なのか、

    織枝さんが冥界から呼んでいるのか、

    それともこれ自体がひとつの悪夢なのか、

    わからないように書きました(^^)

    タイトルは、フレドリック・ブラウン先生の短編シリーズからのいただき。ちょっとぞっとするような話が面白いです。創元の「未来世界から来た男」という短編集に入っています。

    NoTitle

    序章の話を読んでいて、犯罪者の白々しい考えにゾッとする。
    まるで第三者のように、語る男。

    似たような医者がいたねぇ。
    愛人に堕胎薬を飲ませた奴。
    プラシーボじゃないだけに笑えない。
    もっとも、愛人が子供を孕むのもよくわからん。
    どっちもどっちだから同情もしないけど・・・

    男女の仲はわからないよ。

    NoTitle

    なんかこの、崩壊しかけの感じ、良いですね。
    犯罪者の中にある、もうひとつの自分でしょうか。
    良心の呵責ともまた違う、破滅願望。

    しかし、私はもしも、完全犯罪を成し遂げたら、
    きっとそのまま秘密を墓場まで持って行きそう・・・。
    いや、・・・そんな図太い精神はないな。虫もころせない^^;
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