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    「ショートショート」
    ミステリ

    童謡殺人事件

     ←趣喜堂茶事奇譚/ニッサンがルマンを制覇する時(その2) →船中にて
     ぼくは、ぼくのサイレンサーつきの拳銃が撃ち殺した相手を静かに見下ろしていた。

     もちろん、手袋を外すわけにはいかないし、防犯カメラなんかに写るわけにはもっといかない。

     後は、この場を立ち去るだけだ。

     その前に……。

     ぼくは現場に、手毬を転がした。



     翌朝、勤務先である警察署に行ったときには、同僚の刑事たちがうんざりした顔になっていた。

    「来たか、宇津木。コロシだ」

    「コロシですか」

     ぼくは尋ねた。

    「妙な点とかは?」

    「特にないな」

    「そうですか」

     ぼくは自分の残した手毬があまり重視されていないことにちょっと残念な思いをしたが、まあ、童謡殺人の第一段階なんてのは、こんなもんだろう。



    「宇津木、来てくれ。また、コロシだ」

     ぼくは気分はいそいそと、それでいながら顔は深刻な表情を作って先輩刑事についていった。

     現場にあるものがなんなのか、ぼくは知っていた。ぼくがこの手でナイフで刺し殺した死体と、置いておいた武者人形だ。

    「武者人形がありますね」

    「ああ。誰かが忘れてったんだろう」

     え?

     それで、それで片づけちゃうの?

    「なにか、重要な意味が……」

    「ないよ。ないない。あるわけないってこんなもの」

     ぼくは、ちょっと呆然とするのを覚えた。

    「なにをぼさっとしているんだ。仕事をしろ、仕事を」

    「は、はい」



    「宇津木、コロシだ。これで三件目だぞ」

     現場で、ぼくは屋根を見上げた。屋根には、死体が乗っていた。ぼくがこの手で絞殺した後で、この手で屋根の上まで引っ張り上げたのだから当然だ。

    「なぜ、屋根なんかに死体を上げたんでしょう」

    「知るかよそんなこと」

    「でも、重要な意味が……」

    「あのな、死体が屋根の上にあったのは、単にホシが一時的に死体を隠したかった、それだけだ。普通誰も屋根の上なんか見ないもんな。お前も刑事なら、そのくらいの頭を使え、バカ」

     先輩はそのまま捜査に行ってしまった。

     え……そうなの? そういうものなの?



    「宇津木、まったく、この町には何人の殺人者がうろついているんだろうな」

     ひとりだよ!

     ぼくは、心の中でそう叫びたくなるのをこらえながら、松の木に吊るした死体を見た。

    「コロシで間違いないんですか?」

    「ああ。一見、自殺を装ってはいるが、これは首に縄をかけられてから、ものすごい力で引っ張られたんだな。法医学の先生が、ひと目で見抜いたよ」

    「でも、なんで松の木なんでしょう」

    「特に意味はないだろう。そこらに、いい枝ぶりの木が、これしかなかっただけだろうな」

    「だって、その横には、もっと死体を吊るすのに適した金属製のアーチが……」

    「いいか宇津木。刑事の仕事っていうのは、そんなどうでもいいことより、もっと地道な、証拠集めだってことはお前も知っているだろう。はい、仕事、仕事」

     先輩刑事はぱんぱんと手を叩いた。



     ぼくは殺した相手のそばに、みかんを置いた。これでぼくの殺人計画は、すべて終わったわけだが、ぼくはなんとなく納得がいかないものを感じていた。

     警察も、マスコミも、一般市民も、みんな想像力というものがないのか?

     まあ、曲がりなりにも完全犯罪を成功させたのだから、喜ぶべきなのかもしれないが……。



     結局、日本の警察は優秀だった。ぼくは、執念深い科学捜査の前に、自分でも気がつきもしなければ、どういう理屈でぼくが犯人だと示しているのかわからないような、舌を噛みそうになるなんとかかんとか反応とかいう専門的な微細な証拠の前に、ひざを屈したのだ。

    「五人もお前ひとりで殺したとはね。しかも、自分の利益にかかわる被害者は、四人目のたった一人だけ、というから呆れたじゃないか。いったい、なんでこんな、ばらばらな、なんの関係もない事件を起こしたんだ。お前は、無差別に人を殺す快楽殺人者だったのか」

    「わからないのはぼくのほうです」

     取調室で、ぼくは叫んだ。

    「誰も『鞠と殿様』知らないんですか?」

    「なんじゃそりゃ」

     それを聞いたとき、ぼくの中の、なにかが壊れた。



    「先生、宇津木は回復しますかね。取調べの最中に発狂するなんて、前代未聞だ」

     ぼくは、拘置所の、窓に鉄格子のはまった部屋で、先輩刑事の声をどこか遠くに聞きながら、同じ歌を何度も歌っていた。

    「てんてんてんまりてんてまり…… てんてんてまりのてがとれて……」
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    ~ Comment ~

    Re: ダメ子さん

    この手の問題は昔からあって、最初にミステリに警察の捜査活動をリアルに描いた作家が出るまでは、指紋も何もなかったそうですミステリ界。
    • #7934 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.05/06 17:30 
    •  ▲EntryTop 

    もちろん私も知りませんでしたw
    ロマンのかけらもない捜査…
    まあ、殺人にロマンを持ち込むのアレですが。

    最近のミステリーには、大人の事情で
    警察が捜査しない事件を追うのが多いのは
    警察が優秀すぎるからでしょうか?

    Re: YUKAさん

    誰にも気づいてもらえない「見立て殺人」と、気づいてもらえない「鉄壁のアリバイ」ほど悲しいものはないと思います(笑)

    ああ、あと気づいてもらえない「意外な動機」もそうかもしれない(笑)

    こんばんは♪

    やりがいのない、完全犯罪計画^^;;
    気付いて貰えないのは、一番つらいですね~~

    発狂したくもなりますね(笑)

    Re: ねみさん

    降る雪や 明治は遠く なりにけり

    降る雪や 大正は遠く なりにけり

    降る雪や 昭和は遠く なりにけり


    ……いかんジェネレーションギャップが(^^;)

    Re: 矢端想さん

    ミステリというよりユーモア小説ですねこれ(^^)

    典型的なおふざけです。あえていうならファルスかコント?

    Re: ぴゆうさん

    ホームズとコロンボはたしか童謡殺人は手がけなかった気が(^^;)

    ものごとは推理小説みたいに行かないですね。うむむ(^^;)

    NoTitle

    みんなが分からないのに俺が分かるわけが
    ないですよね・・・。

    ポールさん、ようつべ張ってくださいw

    NoTitle

    これは面白い。ちょっとした名作ですね。
    そして、ギャグですね。読んでいてとても楽しかった。

    この作品の罪は・・・ミステリに現実を持ち込んでしまったことです・・・。

    そういう意味では、ミステリのパロディ?アンチミステリ?それともポストミステリ?

    NoTitle

    なんとも残念だわね。
    ホームズやコロンボやマープルや金田一・・・・
    本当は居ないのかもねぇ。

    Re: 才条 蓮さん

    刑事の仕事はひたすら仕事集めで、犯人逮捕は「おまけ」みたいなもんらしいです。

    鑑識がこれまた優秀ですからな。ミステリが書きにくい(^^;)

    NoTitle

    まあ、今のご時勢必要なのは推理力でも警官のスキルでもないですからね。警官にとっちゃ、犯行のプロセスや思惑なんてどうでもいいですからね。要するに犯人とその証拠さえ見つかれば何だっていいですからね。

    Re: 黄輪さん

    もうちょっとギャグにしたかったんですが、頭が働かなかったせいかこれが限界でした(^^)

    バリバリの本格ミステリが書ける頭がほしいです。あこがれてるんだけどなあ~(^^)

    Re: limeさん

    もうみんな元歌知らないのね(^^;)

    わたしもネット検索してはじめて五番からなるストーリーを知ったけど(^^;)

    NoTitle

    無粋にも程がある捜査陣ですね。
    計画犯罪のやりがいがないw

    NoTitle

    何よりも辛い刑罰でした・・・ねw

    (私も知らないとか、言えない・・・)
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