FC2ブログ

    ささげもの

    短期集中連載企画:選ばれなかったものの英雄譚6

     ←短期集中連載企画:選ばれなかったものの英雄譚5 →お知らせ
     とりあえず、今は口がきけることに、ターヘレは感謝していた。

    「寒いわね……」

     フィロンはうなずいた。

     すでに鋼球は海底についていた。二人とも耐圧の首飾りを身につけ、薬酒と白い丸薬を飲んだのを確認し、フィロンは海上から送られてくる精気のバルブを閉じた。

    「ロック解放。注水開始」

     魔法のランタンの灯りを頼りにして、フィロンは船上で魔術師から教えられたとおりに、船上からのバルブを開けた。泉が沸くくらいの量の海水が、足元に溜まってきた。

    「どうするつもりニャ」

     ターヘレの肩にちゃっかりと乗っかったオンブルに、フィロンは答えた。

    「これからこの鋼球に水を入れるんだ。少なくとも圧力を同じにしておかないと、水の抵抗で扉は開かないと、魔術師さんもいっていたんでね。だから君も、早く魚に化けなおしたほうが賢明じゃないかな」

    「いわれなくてもそうするニャ!」

     オンブルは身を翻すと、いかにもまがまがしい黒い魚になった。

    「これからしばらくは、これが頼りね」

     ターヘレは、身につけたベルトの重りを不安そうに触ると、同じベルトにくくりつけられている、指でなでれば蛍光の光で何度も書いて消すことができる魔法の石板を示した。

    「そういうこと。それにしても……」

     フィロンはターヘレが身につけている、海中用の、身体をぴったりと覆うものの、身体の線はばっちりと出る服を見た。

    「目に毒だよ、ターヘレさん」

     その言葉と同時に、水が頭の上にまで上がってきた。

     ターヘレは、水中で、指で石版にすらすらと文字を書いた。蛍光を放つ神聖語のその文字はこう読めた。

    『マジメにやりなさい』



     ターヘレは泳ぎが不得手である。フィロンも泳ぎが不得手である。とはいえ、白い丸薬により息ができ、薬酒のせいで凍えないでいられる以上、魔法のランタンの照らす、初めて見る海底の風景に驚嘆するだけの余裕はあった。

     なんのためにこんな大げさなものを、と思っていた足につけたひれ状のものも、実に動きやすく作られている。

     腰に金の剣をたずさえ、魔王を討ちにいくのでなければ、これは王侯の遊びといっても通るのではないか、そんなことを考えるターヘレであった。

     それにしてもなにを考えているのかわからないのがフィロンである。この青年が、それなりの知恵を持っていることはこれまでにも何度も知る機会があったが、剣も魔法も盗賊の技とも無縁な人間がなんの役に立つのか、ターヘレにはさっぱりわからなかった。あるとすれば神の奇跡かなにかを起こす力だが、そんなものをこの青年がなにひとつ持っていないことは、踊り手でありながら神官戦士でもあるターヘレにはよくわかっていた。

     それならば、水中での作業に熟練した人間をつけてくれたほうが……

     先を泳いでいたフィロンが石版に文字を書き、一方を指差した。

    『あそこだ』

     ターヘレが魔法のランタンをかざすと、たしかにそこには、半分砂に埋もれるようにして、なにかの建造物が口を開けていた。

     ターヘレは指で了解のサインを送ると、石盤に書いた。

    『確かなの?』

    『オンブルが入っていったのでね』

     ターヘレは了解した。

     ふたりは、そのいつ作られたかも知れぬ遺跡の中へ、人間の手で歴史が記されて初めて足を踏み入れていった。

     水路に入る前に、フィロンは入り口に、なにかを貼り付けた。それはごく細い糸のようなものだった。ランタンの光を受けると、それはきらきらと輝いた。

    『それはなんなの?』

    『粘着性の糸』

     なるほど、とターヘレは思った。これをたどることさえできれば、どこからでもこの入り口に戻れるということか。

     オンブルを追いつつ、迷路のごとく長く入り組んだ水路を泳ぎながら二人は、石版で会話を続けていた。

    『頭いいわねあなた』

    『たぶん相手もそれを予想してると思うよ』

     フィロンがそう答えたとき、ふたりは、水を伝ってくる音……というより衝撃波を感じた。

    『なにがあったの?』

    『入り口が壊されたんだろうね』

    『すると……』

    『どこか逃げ道を探さないと、魔王の生死にかかわらず、ぼくたちは溺死だね』

     ターヘレは、そんなフィロンののんきな面を張り倒したくなる欲求に駆られた。

    『ところで』

     はっとターヘレは我に返った。

    『あっちのほうから、光が漏れているよ』

     ターヘレは目を凝らした。間違いない。ターヘレは、はやる胸を押さえながら泳いだ。

     上からの光に向かって泳ぐと……。

     ぽかり、と、頭が水以外のものを感じた。

     そこは水のない、空間になっていたのだ。

     フィロンが手を貸し、ターヘレを引き上げた。

     そこに待っていたのは、奥がまったく見えない純粋な闇を宿した大きな開口部と、壁一面に輝く魔法のランタン、そしてそこで、闇に向かって静かにかしずく黒服の妖艶な美女の姿だった。

     ターヘレはつぶやいた。

    「オンブルなの……?」

     美女は振り向いた。

    「あたし以外の誰だというのよ、馬鹿。さあ、魔王様がお前たちを食らいにくるわよ……」

     闇の中から、なにかが這い出てこようとしていた……。
    関連記事
    スポンサーサイト






    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    【短期集中連載企画:選ばれなかったものの英雄譚5】へ  【お知らせ】へ

    ~ Comment ~

    Re: ミズマ。さん

    とりあえず、書くぶんは書き終えました。

    わたしは根っこの大事なところでファンタジー作家にはなれない、ということを強く実感。

    これ以上のボールの打ち合いは「互いに死を招く」と思ったので(笑)、無理やり完結にしてしまいました。恨むなら母屋を貸したことを恨むがいい(笑)。

    では今日から三日間どうぞ。

    NoTitle

    さようなら猫ちゃん。
    こんにちはお魚さん…と思ったらすぐにさようなら。
    そしてこんにちは! 本気の美女オンブルちゃん!
    いやぁ、やっぱり闇の美女ってイイですよねぇ。

    次でラストバトル開始ですか。ドキドキしますね。
    魔王さま、一体どんな姿で出てくるんでしょうか。ん十年前は四足の獣(少女がわんちゃんと見間違うような姿)だったのですが、ここは海の底。魚でしょうか、鯨でしょうか。それとも四足の獣のまま?

    ポールさん、腕の見せ所ですね!←丸投げもここまでくると立派だと思う。
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【短期集中連載企画:選ばれなかったものの英雄譚5】へ
    • 【お知らせ】へ