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    ささげもの

    短期集中連載企画:選ばれなかったものの英雄譚7

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     闇の奥から、「それ」としか呼びようのないものがゆっくり、ゆっくりと染み出してきていた。

     ターヘレは、光の剣を構えた。

     オンブルはうっとりとした表情を作りながら、その「闇」に手を差し伸べていた。

     フィロンは……。

     その部屋の隅に立って、どこかぼんやりと、しかしどこか醒めた表情で、ただひたすら、その場を見ていた。

     オンブルがくるりと振り向き、フィロンに向かってあざ笑うかのようにいった。

    「あなた、あの犬の話、覚えてる? あれは魔王だったのよ。とはいえ、本体じゃない、ただの一部だけど」

    「君もそうなんだろ、オンブル?」

     フィロンはぼんやりとそれに答えた。

     オンブルは眉をひそめた。

    「そうだけど……あなた、なにを考えているの?」

    「なにって……どうして、この部屋はこんなに明るいのかな、って」

     フィロンの返事を聞き、ターヘレは、たぶんオンブル以上にターヘレは苛立った。

     やはり、この男はなにも考えていない、夢想家にすぎなかったのだ!

    「オンブル。まずはお前から……この光の剣の刃の錆と消えよ」

     ターヘレの言葉に、オンブルは笑った。

    「ほほほ。そうはいかないわ。さっき、フィロンがいったでしょう? わたしはただの小物だけど、魔王と呼んでもなんと呼んでもいいけれど、この闇の一部だって……」

     オンブルは身を翻すと、ターヘレが何かするよりも早く、背後の闇の中へ、一筋の闇の塊として飛び込んでいった。

    「いよいよね」

     ターヘレは光の剣を片手で天高く構えると、そのまま振り下ろし、持ち上げ、すいすいと動かした。

     それが、神に仕えるものの聖なる印だということは、図書館で本漁りの毎日を過ごしていたフィロンにもわかった。ただの印ではない、悪を調伏するための戦いの宣言だ。

     フィロンはじっと見ていた。

     ターヘレは、再び剣を片手で高々と持ち上げ、左手を心臓のあたりにまでもってきた。

     これで小楯があれば。

     ターヘレは強くそう思った。泳ぐのに邪魔でなければ、持ってきたものを。

     ターヘレの仕える神と、その神官戦士たちに受け継がれてきた刀法は、軽い曲刀と小楯によるものだった。主に上段からの斬撃を休みなく繰り出し、敵の反抗は小楯で食い止める。遣い手が真に奥義を極めれば、その様はまるで舞を舞うかのようである、といわれていた。

     無論、ターヘレは奥義を極めた神官戦士だった。

     光の剣は直刀とは思えぬほど軽く、片手で扱うのになんの不安もなかったが、敵の攻撃を受け止め、かわすのに、左手の素手をもってせねばならない、というのは、ターヘレにとっては大きなハンディだった。

     闇が、ターヘレの目の前で形を取りつつあった。

     まず、それは犬の姿であるかのように見えた。次にそれは人の姿であるかのように見えた。そしてそれは熊の姿のようにも見えた。

     ターヘレの額に汗がにじんだ。敵はまだ一足一刀の境に入っていない。

     闇は再び姿を変え、巨大な戦士の姿をとると、猛然とターヘレに向かって突っ込んできた。

     いまだ!

     ターヘレは光の剣を振り下ろし、それを始まりに、切れ目のない斬撃の嵐を送り出した。

     フィロンは部屋の隅で戦いをじっと見ていた……。

     ターヘレは光の剣がしたたかに敵の身体を引き裂く手ごたえを感じ、やれる、という確信が湧くのを覚えた。

     光の剣は、ゼリーでも切り裂くかのごとくに、魔王の身体をすぱりすぱりと切り裂いた。

     だが、相手の背後には、どこまでも続く闇の広がりがあった。

     光の剣をもってしても、斬っても斬ってもきりがなかった。

     ターヘレは持てる力のすべてを使って戦った。

     光の剣が、魔王の心臓に痛烈な一撃を与えるのをターヘレは感じた。

     だが、そのときには、すでにターヘレは立っていられなかった……。

     その手から、光の剣が落ち、床を滑ってフィロンの前にまで転がってきた。

     ターヘレは、絶え絶えな息の下から叫んだ。

    「フィロン! その剣で、魔王を!」

     魔王も、膝をついた状態で、脅すかのようにフィロンに命じた。

    「小僧。その剣をこちらによこせ……」

     フィロンは剣を取り上げたが、ターヘレのほうを向くと、すまなそうな顔をしていった。

    「ごめん。ターヘレさん、ぼくとしちゃ、あなたの信頼を裏切るのはつらいんだけどね」

     フィロンは剣をぶらぶらさせた。

    「ぼくたち人間にとっては、はっきりいってこんなものいらないから、さっさと持っていってくれないかな、魔王さん」
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    ~ Comment ~

    Re: ミズマ。さん

    あまりのアンチクライマックスにお怒りにならないことを強く願います(笑)

    今回の最後のセリフ…!

    フィロンくん大物すぎる!
    すごーく迷惑そうな顔して、世界最高峰の秘宝レベルの剣をぶらぶらさせてるフィロンくん……www

    魔王さんの狙いがだんだん見えてきましたねぇ。
    明日が楽しみです(*^^*)
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