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    ささげもの

    短期集中連載企画:選ばれなかったものの英雄譚8

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     ターヘレは自分が今聞いたことが信じられなかった。

     この男、狂人なのか、裏切り者なのか!

     だが、それ以上に混乱しているのは……。

     魔王のほうだった。

    「ほう、わしに仕えるというのか」

    「仕えはしないよ」

     フィロンは即答した。

    「単に、この剣がいらない、というだけでね。なにせ、この剣の意味と使い方が、わかっちゃったもんで……」

    「使いこなせるのか、お前に?」

    「使いこなせないよ。この剣は、不思議なことに、誰にも使いこなすことのできない剣なんだ」

    「どういう……ことなの?」

     ターヘレは、立ち上がることすらできない自分の体を恨めしく思った。

    「なぜ、魔王が光あるところに出たがるのか、なぜ、これまでこの剣で魔王を倒そうとする試みが失敗し続けてきたのか、常識に則って考えると、答えは簡単さ。魔王は真の闇ではなく、この剣は魔王を倒せる武器ではないってこと」

    「なにをいっておるのだ、お前は……」

     魔王はあざけるようにいった。

    「ぼくは考えていた。ニワトリが先なのか、卵が先なのかって。言葉を返せば、魔王がいるからこの剣があるのか、それとも……この剣があるから魔王がいるのか」

     フィロンは首を振った。

    「哲学者にいわせると、闇は光の欠如だそうだ。ということは、闇を闇として認識するには、光がなくちゃいけない。そして、この剣は、まさにそれの逆なんだ。この剣が放つ光がなくては、魔王の身体をなす闇は、姿を保っていられないんだ。つまり、魔王は真の闇ではなく、偽の闇、闇に似せたなにか別のもの、ということだよ」

     ターヘレは頭が混乱してくるのを覚えた。

    「魔王が、光の中に現れた闇として姿を示さなくてはならないというそれ以外の理由で、こんな部屋にばかみたいに魔法のランタンをいくつもおいておくというわけがあるかい」

    「じゃ、この剣は?」

    「魔王と呼ばれていたものが、いったんそのもといた世界に戻っている間も、いつでもこちらに戻ってこられるように開けておいた出入口、というところかな。だから、この剣の使い方は、その出入口を閉めるため、こうして……」

     フィロンは、一世一代の力で、光の剣を、魔王の後方にある闇の中に放り込んだ。

     ひとことの絶望的な叫びを残し、魔王は……魔王だったものは……闇の中に吸い込まれ、姿を消した。

     壁にいくつも掲げられていた魔法のランタンが、ふっと消えた。

     ターヘレが、自分のランタンで周りを見ると、そこはただの海底洞窟の、空気が溜まった一窟に過ぎなかった。

    「フィロン。聞きたいんだけど、なぜ、魔王は毎回、剣を持った勇者と戦わなければならなかったの?」

    「剣に、なにか魔力のようなものを充填する必要があったからだろうね、定期的に。魔王を倒せる武器という触れ込みにしておけば、なにもしなくても、向こうから持ってきてくれるんだから楽なもんだ」

     フィロンはいった。

    「立てる? そして泳げる? はやく脱出しないと、『精気』がなくなって、ぼくたち窒息死しちゃうよ」

     ターヘレは立てこそしなかったが、執念で這うことをやってのけた。

    「さすが、神官戦士」

    「これから……どうする……のよ?」

    「さっきの蜘蛛の糸をたどって出口のあった近辺に向かい……あとは神の奇跡を待つばかりだね。この海底神殿が、魔力による幻影だったら、入り口が壊れたのも、魔力による幻影だろうから」

     フィロンは伸びをした。

    「えーと、オンブルを追ってここまで泳いできた時間があれだから、体力があまりないことと、糸を探し探し進むことを計算に入れれば、えーと……」

     フィロンは頭の中で暗算をした。

    「ぎりぎり大丈夫かな。とりあえずここで休んでいようよ。今の体力だったら、洞窟の出口にたどり着く前に力尽きちゃうよ」

    「あなた……落ち着いてるのね……」

    「勇者でもなんでもないからね」

     フィロンは頭をかいた。

    「ヴィエラ様には、神殿でいちばんの常識人だ、っていわれたよ」

    「常識人かもしれないけれど……」

     ターヘレは、この男になにかひとこといってやりたかった。

    「常識の度合いが非常識よ」

     ターヘレの意識もそこまでだった。魔王との戦闘で疲れきったターヘレは、ぐっすりと深い眠りについた……。

     と思ったら揺り起こされた。

    「フィロン、どうしたの?」

    「どうしたのもこうしたのもないよ。長編叙事詩をふたつみっつ暗誦できるくらい眠っていたじゃないかまったく。もう時間がない。疲れていても行くよ」

     フィロンは水に飛び込んだ。

     ターヘレは首をひねる思いだった。砂漠の民は時間をうるさくいわないとはいえ、そんなに長く寝てたのかしら?

     それはしばらくして明らかになった。

    『見えた! 出口だ! やっぱり埋まってなかったんだ!』

     ランタンの光にきらきら輝く糸を追ってきたフィロンは、興奮して石版にそう書いた。

     だが、ターヘレには限界だった。

     指のサインで、懸命になって伝えた。

    『苦しい……』

     そうだった。魔王との戦いはターヘレの体力を著しく消耗させるとともに、『精気』の消費も増大させていたのだった。

     フィロンは、かぶりをふると、ターヘレの身体を引っ張り、出口へ泳いだ。

     とにかく、洞窟は出た。だが、この水深、どうするのか?

     薄れそうになる意識の中、ターヘレは見た。

     赤い丸薬……!

     抵抗する間もなかった。ターヘレは丸薬を飲み込み、苦しみなく……。

     死んだ。
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    ~ Comment ~

    Re: 才条 蓮さん

    今回の小説では、「政治的意図を持った権力者としての魔王」ではなく、「絶対悪としての魔王」ですから、クロンさんとはかなり趣が違いますね。

    むしろどこか新プラトン主義的な世界観かもしれません。

    NoTitle

    鶏か卵か・・・の論はありますね。何を持って魔王とし、何を持って勇者とするか・・・という道はありますよね。魔王がいると、民衆が勇者を担ぎ出す・・・という論理みたいですね。今回は逆ですけど。
    勉強になりますね。

    Re: ミズマ。さん

    対というか、「魔王VS勇者」という対構造に、横から角度を変えて対構造を破壊するために介入してくる存在、というか(^^;)

    コンピュータRPGのクライマックスでこんなやつ出したらブーイングの嵐だろうなあ(笑)。

    NoTitle

    言葉足らずでした。
    フィロンくんは『魔王』と対になる存在としての『勇者』ということで、もっと言えば、この『闇の魔王と光の勇者』という構造と対になる存在、ということですね。

    …足らなさすぎだッヽ(^o^)丿

    しかし賢者ですか…若いですよね、フィロンくん。彼の行く末も気になるところです。
    明日が楽しみでありまーす。

    Re: ミズマ。さん

    フィロンくんは誰がなんといおうと「勇者」ではありません。

    むしろ「賢者」として描いたつもりです。まだ若すぎるけど。

    そして賢者いうものは世が平和なときは何の役にもたたないものなのであります、勇者以上に(^^;)

    「闇は光の欠如」といったのはアウグスティヌスだったかプロティノスだったか……。

    魔王は『闇』の魔王ではなく、光がなくては存在できないなら、言わば『影』の魔王だったということですね。魔王という存在にはかわりない、と。
    …作中の『闇』に対する哲学者の言葉を考えると混乱するなぁ^^;
    『闇』を『虚無』とか『混沌』とかと同義語として使っていたのでちょっと混乱しました。
    ……この解釈で正しいのかも自信がないなぁ。


    ともかく、そう考えると、この魔王に対する本当の勇者はフィロンくんなんですねぇ。

    Re: ミズマ。さん

    魔王はいます。いますが、それの正体は「闇」ではなかった、ということで……うーんわかりにくくて申し訳ありません(汗)

    ターヘレちゃんは死にました。そりゃー息が尽きたら死にますわな。

    まあ、ここで問題となるのは、「いつ死んだ」とか「誰により死んだ」とかではなく、「なぜ死んだ」とか「どこで死んだ」とかであることはおわかりでしょう。

    わからなかったら明日の最終回を。

    フィロンくんほんとにやった!
    彼の細腕じゃあ投げただけで筋肉痛になるでしょうね(笑)

    『この魔王は偽物です』って……。最初の話が勇者と偽魔王の話だったからなぁ。世の中には勇者も魔王もおりません、ということでいいのか。
    ……それとも?←と、意味深なことを書いてみたりする。

    ってか、ターヘレちゃんッ!?
    『死んだ』とか!
    代々勇者となった人はろくな目にあってませんが、本当に死んじゃったんでしょうか?

    最後まで読者をやきもきさせるのは流石だなぁ。

    覚え書き&予告

    明日が最終話です。後日譚が語られます。
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