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    「ショートショート」
    ファンタジー

    成功の秘密教えます

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     その出店は、路地裏にひっそりとあった。
     大きな看板には、『成功の秘密を教えます』とある。
     店主らしき人間は、諸星大二郎の「西遊妖猿伝」に出てくる講釈師そっくりの顔をした、五十がらみのやせこけた貧相な男だった。
     ぼくは、捨て鉢な気持ちになって、出店の前の椅子にどさっと腰を下ろした。
    「どうしました」
     店主は、落ち着いた声で訊ねた。
    「どうしたって?」
     ぼくの声は、とげとげしくなっていた。
    「こんなところになにをしに来たか? 聞きに来たに決まっているじゃないか。『成功の秘密』をだよ」
    「ほほう」
    「こんなところに来ても、わかるわけはないけどね。だいいち、そんなものがわかっているなら、あんたは路地裏で店なんか開いているはずがないもんな」
    「千円」
    「え?」
    「千円いただきます。そうすれば、成功の秘密をお教えしましょう」
     店主は余裕を崩さなかった。
     ぼくは、いらいら半分、好奇心半分で、店主に千円札を渡した。
     千円札をおしいただいた店主は、こほん、と小さく咳をした。
    「成功した人の大半は、自分の努力や才能によって、成功したと信じておりますが、実はそうではありません」

     柔らかい声なのに、その声には奇妙な迫力があった。
    「真の成功の鍵は、『成功の精』を手に入れることにこそあり!」
    「成功の精……?」
     ぼくは、食い入るように相手を凝視していた。
    「さよう。この小さな妖精、『成功の精』は、そこいらをふわふわと漂っている。本人の努力や才能とは関係なく、この『成功の精』を人より多く手に入れたものが、手に入れたぶんだけ成功するのです!」
    「それは、望んで手に入るものなのかい」
    「いいえ」
     店主は首を振った。
    「成功の精は、気まぐれに飛び回っている。それを見えないものが捕まえようと思っても、無理というもの」
    「だよなあ」
     ぼくはうなずいた。
    「しかし」
     店主は薄気味悪い笑みを浮かべた。
    「この、特別製の眼鏡を使えば、『成功の精』が手に取るように見えるのです!」
     店主は、物陰から怪しげな眼鏡を取り出した。
    「まさか」
     ぼくは一笑に付そうとした。しかし、そうできないリアリティが店主の声にはあった。
    「ごらんなさい」
     店主は、ぼくに眼鏡を渡した。
     ぼくは眼鏡をかけた。それらしいものはなにも見えない……。待て。あれはなんだ?
     ふわふわとしたぼんやりと白く光る丸いものが、視界の隅を飛んでいた。丸いものは、店主の身体にすうっと吸い込まれた。
     千円を渡したせいか?
     ぼくは苦笑いしていった。
    「この眼鏡、くれる?」
    「一万円になります」
     さっきの白いものはそれか!

     正直、ぼくはくさくさしていた。大学は出たものの、就職戦線に見事なまでに敗北し、今はフリーターをやっている身なのだ。なにか、運命を変えるでかいチャンスが天から降ってくるのを待つよりほかにできることもない。そして、そんなものは降ってこないこともわかっていた。
     今日、この出店でこんな眼鏡を手に入れたのは、ただの気の迷いにすぎなかった。一週間分以上の食費をこんなもののために使ってしまうのはどうかと理性はつぶやいていたが、なんかもう、袋小路に来ている感じで、どうでもよくなっていたのだ。やけくそというやつだ。
     大通りに来た。人がいっぱい歩いている。ぼくは眼鏡をかけた。
     驚いた。
     通りには、無数の小さな白いものが漂っていたのだった。それらは、ふわふわと舞っては、人の身体に吸い込まれていく。見ていると、人が吸い込む量は、人によりばらばらだった。ぼくは面白くなり、ビルの壁に身体をもたせかけると観察を開始した。
     どうやら、『成功の精』を見ることで、成功している人間、一見成功していそうで、実は成功の精から見放されてしまった人間、成功なんて柄じゃないように見えるけれど、実は成功のかたまりであるような人間を見分けることができるらしかった。
    『なるほど、あの奥さん、ちょっと最近落ち目のようだな。あの商店、ちょっと見ると全然売れてなさそうだけど、この「成功の精」の入りようだとそうとう儲けてるらしいな。ふうん』
     一時間ばかり観賞してから、ようやく、自分がこの眼鏡を手に入れた理由を思い出した。
     『成功の精』をキャッチして、自分も成功するのだ!
     ぼくは、きっと通りを睨んだ。

     ぼくは、一週間というもの、バイトも休んでひたすら『成功の精』のキャッチに励んだ。しかし、あの『成功の精』というもの、悠然と飛んでいるように見えて、実はなかなか素早かったのだった。お巡りさんや道行く人に奇異の目で見られながらも、ぼくは『成功の精』が多く飛ぶ表通りを走り回ったが、『成功の精』はふわふわと、ぼくから遠ざかって行くのだった。
     七日目、ぼくはとうとうバカバカしくなって、ハローワークに通うことにした。このところの大暴れのせいで、バイト先を首になってしまったのだ。
     ベンチで端末が空くのを待っている間、ふと思い立って、例の眼鏡をかけてみた。
     目を疑った。
     職を探している全ての人に、『成功の精』が吸い込まれていくのが見えたからだ。もちろん、ぼくの身体にも。
     ぼくは悟った。悟らざるを得なかった。
     日々の地道な努力以外に、『成功の精』をキャッチする方法は存在しないのだ!
     スピーカーが順番を告げた。ぼくは眼鏡を畳むと、端末に向かって歩き出した。
     まずはできることからだ……。
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    ~ Comment ~

    >神田夏美さん

    いつもいつもブラックな話を書いていたら骨の髄までブラックな人間になってしまうので、たまにはこうしていい話も書いてバランスを取る(笑)。

    でも世の中のほうが「正直者がバカを見る」みたいな具合になってきているのがちと不安ですねえ……。

    成功の精は幻覚か何かか、もしくは楽して成功を得ようとする人間が堕落していく話かなあ、と推測していたら、最後まで読んで意外といい話だったのでいい驚きでした(笑)
    日々の地道な努力が成功の秘訣、単純なことですがとても素敵なことですよね。

    >Thomerthさん

    なんたって、怠惰な自分を働ける状態にまで持って行くための鼓舞の小説ですからねえ。
    願望充足小説でスマソ(笑)。

    働きもしないのに成功の精が増える一方の階級については。。
    語ると趣旨が狂いますね(笑)

    。。ワークにハローとそっと声をかけてみます☆
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