「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)
エドさん探偵物語:19 おもちゃの大戦争
おもちゃの大戦争
その朝、エドさんはいつものように自分の探偵事務所の扉の鍵を開けようとしました。
「あれ?」
鍵はかかっていませんでした。
盗まれるものなど何もないけど、無用心すぎたな、と思いながら扉を開けると……。
ぱんぱんぱんぱん!
という音とともに、エドさんの身体になにか細かい砂粒のようなものが当たりました。
なにごとか、と見ると、事務所の机に、赤い服の無数の小さなおもちゃの兵隊が、陣地を構えて待ち伏せていたではありませんか。
「わたしの事務所でなにをしているんだ!」
面食らったエドさんが叫ぶと、指揮を執っていたとおぼしきひげ面の人形が、それに答えて叫びました。
「われわれは赤の国の兵士である! この地はわが国における戦略的重要拠点である! 民間人は、早くここから出て行け!」
「民間人って。ここはわたしの事務所だ。おもちゃの兵隊が遊ぶところじゃ……」
エドさんがめまいを覚えつつも反論しようとすると、戸口から、同じような赤い服の兵士が、中に駆け込んで来ました。
「敵勢接近! あと三分でこちらに来ます! 青の国の最精鋭部隊と思われます!」
「総員、ただちに弾込め!」
エドさんが面食らっていると、戸口から、これまた無数の、今度は青い服を来たおもちゃの兵隊たちが駆け足でやってきました。
「撃てっ!」
「突撃!」
たちまちのうちにエドさんの事務所は、無数の砂粒のような弾が飛び交う、一大激戦地のようになってしまいました。
エドさんは、あっけに取られて見ていましたが、次第に怒りの思いがむらむらと込み上げてきました。
「ええい、やめろ、やめるんだ、頭を冷やして、撃ち合いなんか、さっさとやめろ!」
いくらおもちゃの兵隊がたくさんいても、その武器が、砂粒のような弾を、ゴムではじいたくらいの強さで飛ばす銃と大砲しかなければ、兵隊たちにとって巨人のようなエドさんをどうすることもできません。
両軍ともにあわてふためいて逃げ回る中、エドさんはさらなる大声で兵隊たちを怒鳴りつけました。
「こんな日常の平和な暮らしの中で、戦争なんかやってどうしようというんだ! 銃を置いてとにかく座れ! 座れったら!」
おもちゃの兵隊たちは、その声に圧倒されたのか、その場にへたり込みました。
「いいかい、戦争をしようだなんて考えるのは、とんでもない馬鹿の、とんでもない浪費家の、とんでもない悪人だ。現に、わたしの知っている話ではだな……」
エドさんは、兵隊たちに、戦争で互いを傷つけることの愚かさと、周囲のものがいかに迷惑して、どれだけ悲惨な目に遭うかについて、諄々と説きました。
それを聞いていた兵隊たちは、ひとり、またひとりと、持っていた武器を捨て、制服の肩章を引きちぎり、部屋を出て行きました。
最後に残ったのは、それぞれの軍勢を率いていた将軍ふたりでした。ふたりは、お互いの顔を見ると、うなずきあって、部屋を後にしました。
エドさんは、ほっと息をつくと、部屋中に散らばった砂粒のような弾と、無数の銃や大砲、それに肩章といったものをちらりと眺め、用具入れから掃除機を持ってきて、部屋の掃除にかかりました。
翌日。
昨日の騒動で弾が当たったところにかゆみ止めを塗ったエドさんが事務所に来ると、迎えたのはファンファーレでした。
机の上には、ひざまずく家臣たちに囲まれ、それぞれに王冠をかぶった、赤い服と青い服の人形が、肩を並べて立っていました。
「余は赤の国の王である」
「余は青の国の王である」
エドさんが目を丸くしていると、ふたりの王様は声をそろえて続けました。
「そなたの申したこと、まさにその通りじゃ。余らは目が覚め、長く続いた戦争を終わらせることにした。礼をいうぞ」
「はあ」
「それでじゃ。どうか、わが赤の国で外交官として働いてくれんかな」
「え?」
「ならば、わが青の国ではそなたを大使として迎えようぞ」
「なに! では、わが国では外務大臣の位を授けようではないか。どうじゃな?」
エドさんは天を仰いで叫びました。
「張り合うのもいいかげんにしてくれえ!」
その朝、エドさんはいつものように自分の探偵事務所の扉の鍵を開けようとしました。
「あれ?」
鍵はかかっていませんでした。
盗まれるものなど何もないけど、無用心すぎたな、と思いながら扉を開けると……。
ぱんぱんぱんぱん!
という音とともに、エドさんの身体になにか細かい砂粒のようなものが当たりました。
なにごとか、と見ると、事務所の机に、赤い服の無数の小さなおもちゃの兵隊が、陣地を構えて待ち伏せていたではありませんか。
「わたしの事務所でなにをしているんだ!」
面食らったエドさんが叫ぶと、指揮を執っていたとおぼしきひげ面の人形が、それに答えて叫びました。
「われわれは赤の国の兵士である! この地はわが国における戦略的重要拠点である! 民間人は、早くここから出て行け!」
「民間人って。ここはわたしの事務所だ。おもちゃの兵隊が遊ぶところじゃ……」
エドさんがめまいを覚えつつも反論しようとすると、戸口から、同じような赤い服の兵士が、中に駆け込んで来ました。
「敵勢接近! あと三分でこちらに来ます! 青の国の最精鋭部隊と思われます!」
「総員、ただちに弾込め!」
エドさんが面食らっていると、戸口から、これまた無数の、今度は青い服を来たおもちゃの兵隊たちが駆け足でやってきました。
「撃てっ!」
「突撃!」
たちまちのうちにエドさんの事務所は、無数の砂粒のような弾が飛び交う、一大激戦地のようになってしまいました。
エドさんは、あっけに取られて見ていましたが、次第に怒りの思いがむらむらと込み上げてきました。
「ええい、やめろ、やめるんだ、頭を冷やして、撃ち合いなんか、さっさとやめろ!」
いくらおもちゃの兵隊がたくさんいても、その武器が、砂粒のような弾を、ゴムではじいたくらいの強さで飛ばす銃と大砲しかなければ、兵隊たちにとって巨人のようなエドさんをどうすることもできません。
両軍ともにあわてふためいて逃げ回る中、エドさんはさらなる大声で兵隊たちを怒鳴りつけました。
「こんな日常の平和な暮らしの中で、戦争なんかやってどうしようというんだ! 銃を置いてとにかく座れ! 座れったら!」
おもちゃの兵隊たちは、その声に圧倒されたのか、その場にへたり込みました。
「いいかい、戦争をしようだなんて考えるのは、とんでもない馬鹿の、とんでもない浪費家の、とんでもない悪人だ。現に、わたしの知っている話ではだな……」
エドさんは、兵隊たちに、戦争で互いを傷つけることの愚かさと、周囲のものがいかに迷惑して、どれだけ悲惨な目に遭うかについて、諄々と説きました。
それを聞いていた兵隊たちは、ひとり、またひとりと、持っていた武器を捨て、制服の肩章を引きちぎり、部屋を出て行きました。
最後に残ったのは、それぞれの軍勢を率いていた将軍ふたりでした。ふたりは、お互いの顔を見ると、うなずきあって、部屋を後にしました。
エドさんは、ほっと息をつくと、部屋中に散らばった砂粒のような弾と、無数の銃や大砲、それに肩章といったものをちらりと眺め、用具入れから掃除機を持ってきて、部屋の掃除にかかりました。
翌日。
昨日の騒動で弾が当たったところにかゆみ止めを塗ったエドさんが事務所に来ると、迎えたのはファンファーレでした。
机の上には、ひざまずく家臣たちに囲まれ、それぞれに王冠をかぶった、赤い服と青い服の人形が、肩を並べて立っていました。
「余は赤の国の王である」
「余は青の国の王である」
エドさんが目を丸くしていると、ふたりの王様は声をそろえて続けました。
「そなたの申したこと、まさにその通りじゃ。余らは目が覚め、長く続いた戦争を終わらせることにした。礼をいうぞ」
「はあ」
「それでじゃ。どうか、わが赤の国で外交官として働いてくれんかな」
「え?」
「ならば、わが青の国ではそなたを大使として迎えようぞ」
「なに! では、わが国では外務大臣の位を授けようではないか。どうじゃな?」
エドさんは天を仰いで叫びました。
「張り合うのもいいかげんにしてくれえ!」
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~ Comment ~
可愛らしい
と思えるのは他人事だからなのかもしれませんね
でも、やはり可愛らしいというか・・・競える相手がいる倖せですね。まあ、この二人の争いは因果そのものですね。
エドさんが外交官をどのようにやんわりと断ったのか、想像は尽きませんね
でも、やはり可愛らしいというか・・・競える相手がいる倖せですね。まあ、この二人の争いは因果そのものですね。
エドさんが外交官をどのようにやんわりと断ったのか、想像は尽きませんね
- #8388 十二月一日 晩冬
- URL
- 2012.06/21 21:12
- ▲EntryTop
Re: fateさん
わたしもそう思います。しかし、あちらの国々のかたは、理性も常識も通用しない段階にまで来ているみたいですとほほほ。
それどころか、この日本も、理性も常識も通用しない段階にまで行ってしまいそうな気がしてさらにとほほ。
エドさんどこか中東アフリカその他紛争地域へ行って、なにかいってやってくださいしくしく。
それどころか、この日本も、理性も常識も通用しない段階にまで行ってしまいそうな気がしてさらにとほほ。
エドさんどこか中東アフリカその他紛争地域へ行って、なにかいってやってくださいしくしく。
「春くらいきたっていいじゃないか にんげんだもの」(みとぅを)
↑チッ、そうきたか。
しかし、エドさん、その平和講和、イランとかイスラエルに行ってやってくれんかね。
↑チッ、そうきたか。
しかし、エドさん、その平和講和、イランとかイスラエルに行ってやってくれんかね。
Re: YUKAさん
世の戦争については、ほんとそう思います。
誰か説教してくれる「人間より偉い存在」がないと、人間は戦争は止めないような気が。
それを考えると、楳図かずお先生の「14歳」はまさに人類の文明の正鵠を射たタイトルだったのではないかなあ。
誰か説教してくれる「人間より偉い存在」がないと、人間は戦争は止めないような気が。
それを考えると、楳図かずお先生の「14歳」はまさに人類の文明の正鵠を射たタイトルだったのではないかなあ。
こんばんは♪
エドさん、凄いです^^
戦争終結ですね。
世の戦争も、こうして終わればいいんですけど^^;
そして――
もう時期が違いますがアルファポリスで取り上げられたんですね^^
戦争終結ですね。
世の戦争も、こうして終わればいいんですけど^^;
そして――
もう時期が違いますがアルファポリスで取り上げられたんですね^^
Re: 有村司さん
そのシーンのもとになったのは、「天体戦士サンレッド」で、サンレッドがフロシャイムの怪人たちを正座させて説教するシーンです。アニメであれを初めて見た時は腹を抱えて笑いましたが、よく考えたら、半殺しにはするものの決して怪人の命を取らず、口は悪いものの説教しただけで帰すサンレッドは、マシンマンに並ぶほんとうの「あるべき正義の味方」なのかもしれません(^^)
エド外交官
ああ…(遠い目)
エドさんが武器を持って兵隊たちを制圧せず「口頭で和平を説いた事」が、本当に救いだと思います。
これ、例えばエドさんが「掃除機」あたりを振り回して、兵隊たちを混乱におとしめ黙らせていたら?
それじゃあどこかの大国の「力の論理」となんら変わりません。
エドさんが本物の平和主義者で本当に良かったです。
エドさんが武器を持って兵隊たちを制圧せず「口頭で和平を説いた事」が、本当に救いだと思います。
これ、例えばエドさんが「掃除機」あたりを振り回して、兵隊たちを混乱におとしめ黙らせていたら?
それじゃあどこかの大国の「力の論理」となんら変わりません。
エドさんが本物の平和主義者で本当に良かったです。
- #5710 有村司
- URL
- 2011.11/12 18:49
- ▲EntryTop
Re: ぴゆうさん
将棋やチェスのように、盤上でゲームとしてやると、これほど面白いものもないというのがまた……。
22世紀までにはなんとか性根を改めてほしいものです。今は下手をすると人類滅亡、というところまで来てますからねえ……。
いくらかでもアクセスが増えてくれるのを期待しています。このシリーズもかわいいですからねえ……。
22世紀までにはなんとか性根を改めてほしいものです。今は下手をすると人類滅亡、というところまで来てますからねえ……。
いくらかでもアクセスが増えてくれるのを期待しています。このシリーズもかわいいですからねえ……。
NoTitle
戦争って愚かだよね。
なんだろ。
このどうしょうもない性。
良かったねぇ。
アクセスが増えるといいね。
なんだろ。
このどうしょうもない性。
良かったねぇ。
アクセスが増えるといいね。
- #4371 ぴゆう
- URL
- 2011.06/17 10:07
- ▲EntryTop
Re: limeさん
トップに上がっている期間は、だいたい一週間くらいでしょうか。「紅蓮の街」がそこらへんでしたから。
大賞のシステムは、
「いちばんアクセスがついた」作品が読者賞として10万円。
「アルファポリスがこれはいいと思って選んだ」作品が10万円。
両者には出版の話もあり。ただし、出版には、出版に耐えるだけの量の原稿を書いてないとダメ、もしくは不利、ということらしいです。
わたしもよくわかりませんけれど。
大賞のシステムは、
「いちばんアクセスがついた」作品が読者賞として10万円。
「アルファポリスがこれはいいと思って選んだ」作品が10万円。
両者には出版の話もあり。ただし、出版には、出版に耐えるだけの量の原稿を書いてないとダメ、もしくは不利、ということらしいです。
わたしもよくわかりませんけれど。
NoTitle
おおお、そうなんですか!
おめでとうございます。
トップページを開く楽しみが増えます。
エドさんが取り上げられるんですね^^
こういう感じの、ちょっと風刺の効いた童話、好きです~。
今回の戦い、小賢しいけど、なんか笑えますね。
まだ全部読んで無いですが、じわじわ読ませてもらいますね。
あのトップページのピックアップって、何日くらい続くんでしょう。
まだ市民になったばっかりで、右も左もわかりませんが、あそこもなかなかキビシイ戦いがあるんでしょうねえ。
ちなみに、次回のミステリー大賞、応募してみます。
まあ、玉砕でしょうが、なんでもやってみなきゃね。
・・・でも、まだよくシステムが分からない私です・汗
おめでとうございます。
トップページを開く楽しみが増えます。
エドさんが取り上げられるんですね^^
こういう感じの、ちょっと風刺の効いた童話、好きです~。
今回の戦い、小賢しいけど、なんか笑えますね。
まだ全部読んで無いですが、じわじわ読ませてもらいますね。
あのトップページのピックアップって、何日くらい続くんでしょう。
まだ市民になったばっかりで、右も左もわかりませんが、あそこもなかなかキビシイ戦いがあるんでしょうねえ。
ちなみに、次回のミステリー大賞、応募してみます。
まあ、玉砕でしょうが、なんでもやってみなきゃね。
・・・でも、まだよくシステムが分からない私です・汗
覚え書き
ひさしぶりのエドさんである。
来週23日からしばらく、アルファポリスのトップページでとりあげていただけることになった。
嬉しさのあまりアイデアがひらめき、一気呵成に書いた。
こうして書いてみて思ったが、エドさんもいいなあ(^^)
またなにかアイデアがひらめいたら書こう。
来週23日からしばらく、アルファポリスのトップページでとりあげていただけることになった。
嬉しさのあまりアイデアがひらめき、一気呵成に書いた。
こうして書いてみて思ったが、エドさんもいいなあ(^^)
またなにかアイデアがひらめいたら書こう。
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Re: 十二月一日 晩冬さん
どことなくのんびりしているのは、そのせいかもしれません。
まあ結局遊ぶ機会もないまま、今まで来てしまいましたが……。