趣喜堂茶事奇譚(うんちく小説シリーズ)
趣喜堂茶事奇譚/うんこ殺人(その1)
梅雨冷えの日だった。
ぼくは「とある決意」を抱いて趣喜堂の扉を開けた。
がらんがらんがらん、と鈴が鳴って、扉は開いた。
「いらっしゃいませ」
「舞ちゃんはいる?」
ツイスト博士こと、店主の捻原さんは、グラスを磨きながら、ぼくに向かってほほえんだ。
「いませんよ」
「よかった」
捻原さんは、ふと顔に不安そうな表情を浮かべた。
「なにか、あったんですか?」
「別にないよ」
ぼくは、読書用のテーブルについた。
「舞ちゃんは、ほんとにいないんだね」
「ええ。家庭教師に行ってますから」
「家庭教師……バイトですか?」
「こんな喫茶店にいるだけでは、人間の生活としてあまりいいものではないから、もっと世の中を見てきなさい、といいましてね」
「舞ちゃんに教えられる学生は幸せですよね」
ぼくは、このことは井森には伏せておこう、と思った。
「ええ。顧客が東大受験を控え……」
「え?」
「なにか?」
「東大?」
「ええ。舞はいつもいってましたよ。この喫茶店で過ごす時間も無駄ではない、ソルボンヌもハーバードも、もっと齢を重ねた学生たちでいっぱいだ、って……」
文系、三流大学哲学科在学中、成績の平均はB、のぼくは頭を抱えざるを得なかった。
「その話はもうよしましょう」
ツイスト博士の綽名のもととなった例の博士号、どこで取ったかなんて聞いたら地雷を踏みかねない。
「じゃ、確認しておきますが、舞ちゃんはしばらく帰ってこないんですね?」
「ええ」
これは天がぼくに与えた千載一遇のチャンスだ。
ぼくは気が変わらないうちにいってしまうことにした。
「オレンジジュース。缶でいいです。業務用しかなかったら、冷蔵庫から出したものをタンブラーにそのまま注いでください。氷とか入れなくてけっこうですから」
「本とゲームはどうしましょう?」
「それなんですがね。『あれ』をお願いします」
「『あれ』とは?」
ぼくは声を潜めた。
「中島らも先生が、『未読だがタイトルだけで一位』の作品だと断言した、山田風太郎先生の『あれ』です。これだけいえばわかるでしょう。ありますよね?」
「ありますよ。文庫に落ちましたから、誰でも手に入れやすくなったはずですが」
「よかった」
ぼくは額の汗をぬぐった。井森にも、舞ちゃんにも、この小説が読みたいだなどとは口が裂けてもいえない短編。
「どうぞ」
捻原さんは、書庫から短編集を取り出した。
ぼくは姿勢を正した。
とうとう読めるのだ。
山田風太郎「うんこ殺人」……。
※ ※ ※ ※ ※
親愛なる読者諸君へ。
実は、ブログの責任者でこのうんちく小説の筆者であるわたし、ポール・ブリッツもこの短編「うんこ殺人」は未読である。
じゃあ書くなよ、といわれそうだが、事態はここでドキュメントと化すのである。
今、わたしのPCの前には、「うんこ殺人」が収録された、「山田風太郎ミステリー傑作選8 怪談部屋」(光文社文庫)が置いてあるのだ。
これから読む。
この作品がいったいいかなるもので、どんな感想を抱くかは……。
待て! 更新!
待ってる人なんかいないよな……(^^;)
ぼくは「とある決意」を抱いて趣喜堂の扉を開けた。
がらんがらんがらん、と鈴が鳴って、扉は開いた。
「いらっしゃいませ」
「舞ちゃんはいる?」
ツイスト博士こと、店主の捻原さんは、グラスを磨きながら、ぼくに向かってほほえんだ。
「いませんよ」
「よかった」
捻原さんは、ふと顔に不安そうな表情を浮かべた。
「なにか、あったんですか?」
「別にないよ」
ぼくは、読書用のテーブルについた。
「舞ちゃんは、ほんとにいないんだね」
「ええ。家庭教師に行ってますから」
「家庭教師……バイトですか?」
「こんな喫茶店にいるだけでは、人間の生活としてあまりいいものではないから、もっと世の中を見てきなさい、といいましてね」
「舞ちゃんに教えられる学生は幸せですよね」
ぼくは、このことは井森には伏せておこう、と思った。
「ええ。顧客が東大受験を控え……」
「え?」
「なにか?」
「東大?」
「ええ。舞はいつもいってましたよ。この喫茶店で過ごす時間も無駄ではない、ソルボンヌもハーバードも、もっと齢を重ねた学生たちでいっぱいだ、って……」
文系、三流大学哲学科在学中、成績の平均はB、のぼくは頭を抱えざるを得なかった。
「その話はもうよしましょう」
ツイスト博士の綽名のもととなった例の博士号、どこで取ったかなんて聞いたら地雷を踏みかねない。
「じゃ、確認しておきますが、舞ちゃんはしばらく帰ってこないんですね?」
「ええ」
これは天がぼくに与えた千載一遇のチャンスだ。
ぼくは気が変わらないうちにいってしまうことにした。
「オレンジジュース。缶でいいです。業務用しかなかったら、冷蔵庫から出したものをタンブラーにそのまま注いでください。氷とか入れなくてけっこうですから」
「本とゲームはどうしましょう?」
「それなんですがね。『あれ』をお願いします」
「『あれ』とは?」
ぼくは声を潜めた。
「中島らも先生が、『未読だがタイトルだけで一位』の作品だと断言した、山田風太郎先生の『あれ』です。これだけいえばわかるでしょう。ありますよね?」
「ありますよ。文庫に落ちましたから、誰でも手に入れやすくなったはずですが」
「よかった」
ぼくは額の汗をぬぐった。井森にも、舞ちゃんにも、この小説が読みたいだなどとは口が裂けてもいえない短編。
「どうぞ」
捻原さんは、書庫から短編集を取り出した。
ぼくは姿勢を正した。
とうとう読めるのだ。
山田風太郎「うんこ殺人」……。
※ ※ ※ ※ ※
親愛なる読者諸君へ。
実は、ブログの責任者でこのうんちく小説の筆者であるわたし、ポール・ブリッツもこの短編「うんこ殺人」は未読である。
じゃあ書くなよ、といわれそうだが、事態はここでドキュメントと化すのである。
今、わたしのPCの前には、「うんこ殺人」が収録された、「山田風太郎ミステリー傑作選8 怪談部屋」(光文社文庫)が置いてあるのだ。
これから読む。
この作品がいったいいかなるもので、どんな感想を抱くかは……。
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~ Comment ~
NoTitle
確かにタイトルがすごいですね。
このタイトルをつける出版社と著者の勇気がすごいですけどね。
このタイトルをつける出版社と著者の勇気がすごいですけどね。
Re: 黄輪さん
タイトルのインパクトだけだったら横綱級でしょうな。
そろそろ寝床へ行って読むことにしますか(^^)
そろそろ寝床へ行って読むことにしますか(^^)
NoTitle
中島らも、で僕のセンサーがぴこっと反応しました。
とんでもないタイトルですね……。
感想を楽しみにしてます。
とんでもないタイトルですね……。
感想を楽しみにしてます。
こんばんはー
堂々たるタイトルですね
そこまではっきり言われるとむしろ清々しい気分です。
内容もなかなか気になります~
被害者はやはり悲惨な目に!?

そこまではっきり言われるとむしろ清々しい気分です。
内容もなかなか気になります~
被害者はやはり悲惨な目に!?
- #4380 ゆういち
- URL
- 2011.06/18 17:54
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Re: 才条 蓮さん
これを超えるインパクトのあるタイトルは、そうは作れないだろうなあ……。
内容もナンセンスで面白いんですけどね。タイトルには勝てん。