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    趣喜堂茶事奇譚(うんちく小説シリーズ)

    趣喜堂茶事奇譚/うんこ殺人(その2)

     ←趣喜堂茶事奇譚/うんこ殺人(その1) →エドさん探偵物語:21 ぼくたち宇宙人
     文庫本で見てみると、「うんこ殺人」は、総ページ数二十四ページほどの短編にすぎない。オレンジジュースを飲みながら、三十分もかからずに読み終わるような代物だ。

     ぼくは、その一行目を読み始めた。

    「一 地獄編第X歌」

     舞台は、えーと、アケロンテ河……。

     そうか。ダンテの「神曲」のパロディということか。

     山田風太郎先生は、「神曲」がたいへんお好きらしい。ぼくは、昔読んだ、山田先生の長編「神曲崩壊」を思い出してにやにやした。なるほど、あの作品の源流はここか。

     しかし、それがタイトルと、どうかかわってくるのだろうか?

     と思っていたら、三ページ目でいきなり「うんこ」という言葉が出てきた。

     やっぱりそうなるよなあ。

     筋は、娘を嫁入りさせようとしていた医者の一家が、事故に巻き込まれて全員死亡し、地獄の裁判官、ミノスの前で自分の行為を弁明する、というものだが……。

     ぼくは腹の底から出てくるげらげら笑いを押さえることができなかった。

     この短編が収録されている「山田風太郎ミステリー傑作選8 怪談部屋」は、「怪奇篇」と銘打たれているが、「怪奇」じゃないよこれ! どっちかといえば、「ユーモア篇」に入れるべき短編だよまったく!

     裁かれる医者夫妻の性格設定と論理は、まるで筒井康隆先生のそれであるし、ミノスと、罪人をこの場へ引き出してきたメフィストフェレスを含む面々のやりとりは漫才のそれを聞いているみたいな、見事なボケとツッコミだ。

     そして、その真相……。

     ぼくは、腹をよじらせて笑った。すごい。山田風太郎先生、すごい。こんな、バカバカしい小説を、いったいいつ書いたんだ?

     ぼくは巻末の解題を読んだ。

    「昭和二十三年……!」

     昭和二十三年の作品とはとても思えない。てっきり、高度経済成長の真っ只中に書いたものだとばかり思っていたが……。

    「楽しまれたようですね」

     捻原さんが、落ち着いた声でいった。

    「お下げしてもよろしいですか?」

     ぼくは、空になったタンブラーに気づいた。

    「あ、はい」

    「どうでした?」

    「モーツァルトは、人との会食の中でも平気でシモネタ話をやったそうですが」

     ぼくは言葉を選び選び答えた。

    「その場に居合わせたかのような気分でした。ある意味、『神曲崩壊』よりもすごいですね、この短編」

    「ご満足いただけて嬉しいですよ。なにか、お口直しに……小説のお口直しに、ということですが、軽めの短編集をお持ちしましょうか?」

    「お願いします。そうですね……『関節話法』あります? 筒井康隆先生の。『富豪刑事』でもいいですが」

     ぼくは、捻原さんに「怪談部屋」を返しながらいった。今回は爆笑ものだったが、山田先生のミステリや怪談には、人間性だとか人生だとかについて、ショーペンハウアーよりも悲観的になるような、やりきれない結末のものが多いのだ。

    「ございますよ。『関節話法』でいいですね?」

    「お願いします」

     ぼくが頭を下げたとき、がらんがらんがらん、と戸口の鈴が鳴った。

    「……だからだな、舞ちゃん、これからしばらく、あいつに会ったとしても、女がらみの話はしないでやってくれないか。そうとう落ち込んで、思いつめ……」

    「井森さん。すでにいらっしゃるみたいですよ」

    「え?」

     ぼくと井森と舞ちゃんは互いに顔を見た。

     ぼくの表情を見た舞ちゃんは、目をぱちぱちした。

    「どうなされたんです?」

    「舞ちゃん、君はこの世界にいてくれないか。ちょうど腹が減っていたんだ。一時間でも二時間でも待つから、ひとつドリアを焼いてくれ。真っ白なホワイトソースで、ちょっと焦げ目がついたやつ。カレー味はやめてくれればそれでいい」

    「な……なんだよ、いったい?」

     うろたえる井森に、ぼくは指を突きつけて笑った。

    「ぼくは、今はたいへん機嫌がいいんだ。井森、お前は天国へ行っていい。月天でも、水星天でもどこでも行き、ベアトリーチェに会ってこい!」

    (この項終わり)
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    ~ Comment ~

    Re: しのぶもじずりさん

    ラブレーのあの大作について感想を書いたら、どんなコメントが来るだろうか(笑)

    二代目快楽亭ブラック師匠の落語を(以下略)
    • #8087 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.05/21 21:52 
    •  ▲EntryTop 

    山田風太郎は忍者ものを読みました。
    面白かったです。

    作品の内容に言及したコメントを書こうとしたら、送信できませんでした。
    残念です。すごいのに。

    Re: 面白半分さん

    もしかしたら出版社品切れかもしれないので、アマゾンか図書館のほうがいいかもしれません。

    どうして書籍というものは、「面白いものから絶版になる」ような錯覚を覚えるのだろう?(^^;)

    ちなみに山田風太郎先生のミステリで一番気に入っているのは、シリーズ「夜よりほかに聴くものもなし」です。あれはすごい。

    NoTitle

    うんこ殺人
    タイトルで気になってました。
    しかし、
    このうんこの文字を打ち込むのにはなかなか抵抗があるもんですね。(しかも人様のブログで)

    ”怪談部屋” 本屋でアタリをつけたいですが
    田舎の本屋には山田風太郎はほんの少ししか置いてないです。

    Re: ねみさん

    夜中の11時38分に夜食にカレーを食うようなシビアな受験生活を応援いたします(^^)

    それにしても、この言葉、FC2の禁止ワードじゃなかったのか。意外(笑)。

    NoTitle

    う、カレー食ってるときに・・・。

    うんこですか・・・。
    うんこ・・・。

    Re: 矢端想さん

    よくあんなもの読めましたね……。

    わたしは冒頭でギブアップしました(^^;)

    山田風太郎先生の「神曲崩壊」は、昭和の末ころに書かれた作品で、山田風太郎先生と、ガイドとしてラ・ロシュフーコー公爵、馬車の御者として怪僧ラスプーチンが出てきて、地獄めぐりをし、昭和人にはおなじみの人間がぞろぞろと地獄に送られているのを見るブラックユーモア小説です。メチャクチャ面白いです。

    Re: 矢端想さん

    あれとは直接的にかかわりはありません。

    現実世界で起きた事件のほうとかかわりがあるのですが、それがあなたもう(笑)。

    山田風太郎先生によれば、もとになった事件は実話ということですが、それにしてももう(笑)。

    ぜひ一度お読みいただき、山田風太郎先生の世界に眼を向けてほしいであります(^^)

    「神曲崩壊」も面白いですよ(^^)

    NoTitle

    あ・・・私が読んだのは「岩波版」でした・・・。
    口語訳がいっぱい出ているのを後で知ってショックでした・・・

    NoTitle

    「地獄篇 第18歌」には世にも恐ろしい世にもクサい「ウンコ地獄」が登場しますが、何か関係あるのでしょうか。

    そういえば、昔友達に教えてもらった小咄に「地獄の三分間」というのがありますww
    今のところブログで紹介する気はありませんけれど・・・

    Re: ゆういちさん

    ダンテの「神曲」は、わたしは河出書房のハードカバーで読みましたが、「イリアス」に負けず劣らず、波乱万丈で面白い叙事詩であります。

    これに比べれば、そこらのライトノベルのファンタジーなど、薄味すぎて物足りませんな(いいすぎかもしれないけど)。

    ちなみに、識者や読者の一致した意見ですが、

    「岩波文庫版はやめろ」

    であります。凝りすぎてわけがわからなくなっておりますから……。

    Re: ひらやまさん

    スウィフト先生のあれは、社会風刺とか告発以前に、ブラックジョークとしては「やりすぎ」な気がします。(^^;)

    その姿勢は嫌いじゃないですが。(^^;)

    こんばんはー

     
     ダンテの「神曲」のパロディなんですねv-290
     まず、「新曲」を読んでいない私なので、、一度読んでみようかな……古書だけど「イリアス」が読破できたから読めるかもしれないと思ってしまう今日この頃。

     あと、キリ番はまだでした。
     もし踏んだらお知らせしますね~

    NoTitle

    あははは、風太郎はやりますなあ。今度はスイフトの、アイルランドの人口問題のなんたらかんたら、というのではいかがでしょうか。

    覚え書き

    この二日間のせいで、相互さんがごっそりといなくなっていたら、こっそりと押入れの中でひとり泣きます(^^;)
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