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    「ショートショート」
    SF

    緑茶がない

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     お茶が飲みたくなった。
     おれは手近な自販機へ向かった。
     自販機へ行けば、緑茶のペットボトルが山ほど売っている。よくもこんな、それほど差がないものにこれほど多くの種類があるもんだと思ってしまうくらいだ。
    「あれ?」
     おれは首をひねった。
     緑茶がない?
     おれの前にあったのはコカ・コーラ社の自動販売機だった。ここの主力の緑茶はなんだったっけ? なんだか忘れたが、とにかく緑茶は出していたはずだ。だが、コーラ、コーヒー、ジュースにスポーツドリンク、それに烏龍茶はあっても、なぜか緑茶はなかった。
    「くそっ」
     おれは自販機を拳で叩いた。強化プラスチックが、ぼこん、と音を立てた。

     なければ飲みたくなるのが人情というものだ。おれは足を棒にして歩き回り、ついに目指す「伊藤園」の自販機を見つけた。さすがにここにくらいは……。
     なかった。
     おれは目をごしごしとこすった。紅茶に烏龍茶に麦茶はあるものの、緑茶はなかったのだ。
     どうなってるんだ?
     伊藤園も緑茶が売れなくなったのか?
     まあいいや。でも、どこかで緑茶は売っていないものか。
     おれは、周囲を眺めた。
     甘味処があった。おれは緑茶が飲みたいだけで、汁粉もあんみつも食いたくはなかったが、ちょっと入ってみることにした。
     十分後、おれは腹を立てて甘味処を出てきた。なんてことだ。汁粉に添えられてきたのは、ほうじ茶だったのだ。
     おれはカフェインに餓えつつも緑茶を探した。
     スーパーに入り、うろうろする。だが、緑茶は、茶葉も、ティーパックも、抹茶も、缶もペットボトルも置かれてはいなかった。
     どういうことだ!
     おれは緑茶飲みたさにいらいらしつつ、また同時になにか得体の知れない恐怖を覚えつつ、スーパーを出た。
     どこへ行くともなしに歩いていたが、ちょうどあることを思い出した。
     寿司屋だ。回転寿司の店に行けば、誰でも緑茶が飲み放題のはずだ。
     おれは熱病に浮かされたような目で、寿司屋を目指した。
     肩に手がかけられた。
    「行っちゃいかん」
     振り向くと、そこには黒服の男が立っていた。
    「どういうことです? なにがいいたいんです?」
     黒服の男は、おれを車に引っ張っていった。
    「なにを……」
    「いいから乗ってくれ」
     おれは車に押し込まれた。
     車は道路を走り始めた。
    「君……君は、識域下、というものに対してどう思うかな?」
    「シキイキカ? 人間が、なにを認識するかという、あれですか?」
    「そうだ。今、政府は、恐ろしい実験をしているのだ」
    「なんの?」
    「緑茶を人間の認識から外す実験だ」
     おれは耳を疑った。
    「緑茶を? そんなことして、どうなるっていうんです?」
    「どうにもならないさ。今は、ただの実験だ。だが、君の態度を見てもわかるように、完全に、君に緑茶は見えなくなっているはずだ。これと同じことを、例えば、人間に行ったらどうなる? あるとき、一人の人間が姿を消すだとか、もっと恐ろしいことに、一人の人間が、誰の心にも英雄としてのイメージを与えられたとしたら?」
     おれはツバを飲み込んだ。
    「そんなのイヤですよ」
    「そうだろう。われわれは、政府のそんな実験に気付いたときから、秘密裏に、政府のこの実験に対して耐性を持つ人間を探してきた。君もその一人なのだ。君は政府の実験下においても、緑茶というものの存在を忘却せず、それを探した。すばらしい素質があるというものだ」
     おれはそういわれて目を白黒させた。
    「この車はどこへ行くんです」
    「墨東へ。そこには、この実験から身を守るための完全なシェルターと、同志たちがいる。そこで、緑茶で乾杯しようじゃないか」

     これが、革命にとっての記念碑的な出来事たる「墨東ティーパーティー」に至るまでのいきさつである……。
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    ~ Comment ~

    Re: ihiroppiさん

    完全に苦し紛れで書いたのに人気あるなあこの小説……。

    ゴースト・ストーリーの大家レ・ファニュには、そのものずばり「緑茶」という怪奇小説の傑作があります。雰囲気満点で読み手に迫ってくるのですが、オチがすごいであります。(笑)

    緑茶でここまで話が作れるとは驚きです

    なんか話を更に盛れそうですね(^^;)

    Re: YUKAさん

    なんでこんなに人気があるんだこの小説!(笑)

    こんなことができるようになるためには、科学技術のパラダイムシフトが三回以上必要でしょうなあ(^^;)

    おはようございます^^

    緑茶がない――で、革命話になるとは(笑)

    面白かったですけど、怖い話ですね~~
    日本じゃ無理っぽいけど、諸外国では秘密裏に似たようなことやってそうで。

    ――って考えてしまうほど、説得力がありました^^

    Re: 矢端想さん

    ボストンじゃなくて墨東(笑)。

    アルコールみたいに酩酊しないで、嗜好品としておいしく飲める「茶」は、重要な戦略物資だったみたいですね。

    某ギャグマンガみたいに「ティーセットを持ち歩き、タンニンが切れると暴れるイギリス兵」みたいなことはなかったでしょうけど(笑)

    Re: 土屋マルさん

    これを書いたときは完全にネタに詰まって、「最後のダジャレ」から逆算して書いたのに妙に人気があるなこの小説!(笑)

    わたしは自販機でお茶やコーヒーが売り切れていると残念な気持ちになります。カロリーがぁ~。

    NoTitle

    土屋マルさんの書き込みにつられてふらふらっとやってきてしまいました。

    おお、これが「ボストン茶会事件」の真相であったか! ・・・あれ?
    伊藤園?回転寿司?

    合衆国独立のきっかけともいえる事件だったはずだが・・・。

    NoTitle

    ポール・ブリッツさん、こんばんは(*´∀`*)ノ
    今日はSFのショートショートにお邪魔しています♪

    このお話、他の方も仰っておられますが、何だか妙な説得力がありますね~。
    たかが緑茶なのだけど‥‥何か怖い(((( ;゚д゚)))アワワ
    こんな技術、実際にあったらマトリックスみたいになりそうで無闇に寒気がしましたorz

    とりあえず、緑茶もほうじ茶も抹茶も好きな私としては、
    「ポールさん、案外飲み物ネタが多いなあ。ツウなのかなあ」
    などと、こっそりニヤッとしてしまいましたwww

    >神田夏美さん

    これで長編を書いたらすごく暗くて陰鬱とした作品になってしまいそうです(^^)
    妙な説得力をお褒めいただきありがとうございます。

    こちらこそそちらにお邪魔していなくてすみません~(汗)。コミケ前でいろいろとばたばたしていまして(汗汗)。
    拍手で「小説テンプレに変えたらどうか」とおっしゃってくれたかたがいらっしゃいまして、変えてみましたが、そうですか読みやすくなりましたか!
    やってみるものですねえ。ありがとうございます~。
    でもリンクがいまいち読みづらくなってしまったのがつらいところなんだよな(汗汗汗)。

    オチもよかったですが、これも書き方によっては長編にできそうな内容ですね~^^
    冷静に考えてればありえない設定なのに、妙な説得力のあるところがポール・ブリッツさんの小説のすごいところですね^^

    PS最近訪問できてなくてすみません!ちょっと忙しくて……また時間ができたら必ず読ませて頂きますので!
    PS2テンプレ変えられたのですね、読みやすいです^^

    >うつさん

    たぶん革命は成功するでしょう。
    なぜなら、この小説、最後の「墨東ティーパーティー(ボストンティーパーティー)」というダジャレを書くためだけに書いたものですので……(^_^;)

    しっかし、実験のためとはいえ
    町中から緑茶をなくしてしまう政府って一体。
    ある意味、恐ろしい圧政だな。
    この青年は果たしてどうなるのだろうか?
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