「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
範子と文子の三十分的日常(ギャグ掌編小説・完結)
範子と文子の三十分的日常/六月・月末
“よくここまでがんばりました、ミス・シモカワ”
大上先生はそういうと、文子の胸にバッジをつけてくれた。
範子と駒子はそれを見て、パチパチと拍手をした。
“こ、これで?”
文子は胸のバッジを信じられぬ思いで見た。
“そうです。三ヶ月の、わたしの毎日の英語による徹底した教育により、あなたは、英語により初歩的な議論ができるだけの語学力と表現力、それに論理的思考力を身につけました。普通の学生にはできないことです”
“範ちゃん、初歩だって”
文子は範子に小声でいった。
“大上先生の初歩っていうのは、ヨーロッパの中等教育修了レベルを指すのよ。少なくとも欧米の大学の講義を理解して、普通に議論ができるレベルね”
範子は文子の肩を叩いた。
駒子がぼやいた。
「あのー、先生。さっきから、三人でなにをしゃべっているのかよくわからないんですけど」
「駒子さん。それでは、どこがわからないのか、明日までに質問事項をまとめてきなさい。わかりましたね」
「やぶへびだった……」
駒子は情けなさそうな顔になった。
“と、いうわけで、ミス・シモカワ”
“はい”
“日本語の自由な使用を許可します”
“ほんとですか!”
「がんばったわね」
「やったじゃん」
もとから英語は叩き込まれている範子と、「ジャパニーズ」と「フリー」は聞き取れたらしい駒子は、文子を囲んでハイタッチをかわした。
「ありがとう……ありがとう、みんな!」
文子は涙ぐみながらハイタッチに答えた。
「それで」
言葉を日本語に切り替えた大上先生は、三人に告げた。
「これからしばらく、わたしは日本を離れて留守にします。その間も、まじめに勉強を続けるのですよ」
「はい」
三人は答えたが、頭の中では、街へ繰り出してなにをして遊ぶか、しか考えていなかった。
しかし、それはすでに大上先生にはお見通しのようだった。
「わたしの代役が、中国から来ています」
「中国? あの、中華人民共和国ですか?」
文子はびっくりした。だが、範子には心当たりがあるようだった。
「先生、しの、帰ってきてるんですか? 二年ぶり?」
「しの?」
駒子が訊いた。
大上先生はうなずいた。
「範子さんの妹、宇奈月忍子(しのぶこ)さんです。入ってらっしゃい、忍子さん」
その声と同時に、扉の影から、小学生くらいの少女が、変な人形を抱いて入ってきた。
「ごあいさつを、忍子さん」
忍子は口の中でもごもごと、なんだかよくわからない言葉を発した。
「なんていってるの?」
「わからなくて当然よ。サンスクリット語だもの」
「へ?」
文子と駒子は、すっとんきょうな声を上げた。
「中国語じゃなくて?」
「忍子はね」
範子はいった。
「真の意味での、天才よ。たぶん知能指数はここにいる誰よりも高いわね。だから、普通の学校では受け入れられなくて、中国に留学して趣味三昧……」
「趣味?」
「文子、そこの冷蔵庫から栄養ドリンク一本取ってきて」
「はあ」
文子は冷蔵庫から栄養ドリンクの瓶を持ってきた。
「テーブルに置いて」
「はあ。……って、まさか範ちゃん?」
宇奈月忍子はそんな文子をよそにすたすたと栄養ドリンクのそばに歩いていった。
緩慢にも見える速さで、右手が動いた。
次の瞬間、栄養ドリンクの瓶は、鋭利なギロチンでやられたかのように首をはねられていた。
駒子と文子は、呆然とした。
忍子は手にした人形のボタンを押した。
『飛行機だけはカンベンな』
かんべんなのはこっちだ、と文子は思った。
大上先生はそういうと、文子の胸にバッジをつけてくれた。
範子と駒子はそれを見て、パチパチと拍手をした。
“こ、これで?”
文子は胸のバッジを信じられぬ思いで見た。
“そうです。三ヶ月の、わたしの毎日の英語による徹底した教育により、あなたは、英語により初歩的な議論ができるだけの語学力と表現力、それに論理的思考力を身につけました。普通の学生にはできないことです”
“範ちゃん、初歩だって”
文子は範子に小声でいった。
“大上先生の初歩っていうのは、ヨーロッパの中等教育修了レベルを指すのよ。少なくとも欧米の大学の講義を理解して、普通に議論ができるレベルね”
範子は文子の肩を叩いた。
駒子がぼやいた。
「あのー、先生。さっきから、三人でなにをしゃべっているのかよくわからないんですけど」
「駒子さん。それでは、どこがわからないのか、明日までに質問事項をまとめてきなさい。わかりましたね」
「やぶへびだった……」
駒子は情けなさそうな顔になった。
“と、いうわけで、ミス・シモカワ”
“はい”
“日本語の自由な使用を許可します”
“ほんとですか!”
「がんばったわね」
「やったじゃん」
もとから英語は叩き込まれている範子と、「ジャパニーズ」と「フリー」は聞き取れたらしい駒子は、文子を囲んでハイタッチをかわした。
「ありがとう……ありがとう、みんな!」
文子は涙ぐみながらハイタッチに答えた。
「それで」
言葉を日本語に切り替えた大上先生は、三人に告げた。
「これからしばらく、わたしは日本を離れて留守にします。その間も、まじめに勉強を続けるのですよ」
「はい」
三人は答えたが、頭の中では、街へ繰り出してなにをして遊ぶか、しか考えていなかった。
しかし、それはすでに大上先生にはお見通しのようだった。
「わたしの代役が、中国から来ています」
「中国? あの、中華人民共和国ですか?」
文子はびっくりした。だが、範子には心当たりがあるようだった。
「先生、しの、帰ってきてるんですか? 二年ぶり?」
「しの?」
駒子が訊いた。
大上先生はうなずいた。
「範子さんの妹、宇奈月忍子(しのぶこ)さんです。入ってらっしゃい、忍子さん」
その声と同時に、扉の影から、小学生くらいの少女が、変な人形を抱いて入ってきた。
「ごあいさつを、忍子さん」
忍子は口の中でもごもごと、なんだかよくわからない言葉を発した。
「なんていってるの?」
「わからなくて当然よ。サンスクリット語だもの」
「へ?」
文子と駒子は、すっとんきょうな声を上げた。
「中国語じゃなくて?」
「忍子はね」
範子はいった。
「真の意味での、天才よ。たぶん知能指数はここにいる誰よりも高いわね。だから、普通の学校では受け入れられなくて、中国に留学して趣味三昧……」
「趣味?」
「文子、そこの冷蔵庫から栄養ドリンク一本取ってきて」
「はあ」
文子は冷蔵庫から栄養ドリンクの瓶を持ってきた。
「テーブルに置いて」
「はあ。……って、まさか範ちゃん?」
宇奈月忍子はそんな文子をよそにすたすたと栄養ドリンクのそばに歩いていった。
緩慢にも見える速さで、右手が動いた。
次の瞬間、栄養ドリンクの瓶は、鋭利なギロチンでやられたかのように首をはねられていた。
駒子と文子は、呆然とした。
忍子は手にした人形のボタンを押した。
『飛行機だけはカンベンな』
かんべんなのはこっちだ、と文子は思った。
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NoTitle
中国で何を習得してきてるんですか、忍子ちゃん。
(しのちゃんって言いやすいな)
そのうち、人体浮遊術とか披露してくれそうですね。
なんか、これからポールさんが、オチに困った時にしのちゃんを出して来そうな予感が・・・・。
(しのちゃんって言いやすいな)
そのうち、人体浮遊術とか披露してくれそうですね。
なんか、これからポールさんが、オチに困った時にしのちゃんを出して来そうな予感が・・・・。
Re: ねみさん
レーザーだとかマイクロミサイルだとかを山ほど装備している最終兵器の前では戦うことは無理です。
というかそんな相手が迫ってきたらこいつ逃げます(^^;)
というかそんな相手が迫ってきたらこいつ逃げます(^^;)
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Re: limeさん
「発勁」だったら頼めば見せてくれるかもしれませんが……。