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    「ショートショート」
    SF

    侵略のフォルム

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    「この国が独裁国家だということはよく知っていました。だからこの国を選んだのです」
    「君は自分がなにをやっているのかわかっているのか」
     わたしの恩師、ハーディング教授は、わたしに向かって訴えかけるようにそういった。
    「わかってやっています。人間を、そのくびきから解き放つんですよ」
     ハーディング教授は、額の汗をぬぐった。
     わたしは、よく冷えたマティニをすすりながら微笑んだ。
    「先生。わたしが最後に書いた論文の内容は、覚えておられますよね?」
    「忘れられるか。あれは異常な論文だった。この地球上に生まれた生物は、本来、まったく違った形態と知性を持つはずだった。それを……」
    「今の形にしたのは、宇宙からの影響だった。つまり、われわれの身体のフォルムは、侵略者のものだった。いや、形態そのものが、侵略者なのだ!」

     わたしはマティニの残りを一気にあおった。
    「先生。わたしは、その証拠をつかみました。そして、やつらを破壊し去る方法も」
     ハーディング教授はかぶりを振るのみだった。
    「その方法については、くだくだ述べることはしますまい。時限装置つきのウィルスとだけいえば、わかっていただけると思います」
    「うまく行くと思っているのか」
    「うまく行きますよ。わたしは、先生の弟子ですからね。不肖の弟子ですが」
    「まったくだ」ハーディング教授はさらに汗をぬぐった。「君は、自分がなにをしているのかを本当にわかっているのか。君がやろうとしていることは、いや、君の口ぶりからすると、大半はすでにやったことだろうと思うが、全人類に対して死刑を宣告するということだぞ」
    「わかっていますよ。今のままの人類は、種として死んだほうがいいんだ」
     わたしは空のグラスを置いた。
    「考えてもみてください。人類がこれまでしたことを。物理的な面に限っても、果てしない環境破壊と戦争だ。そしてこのまま宇宙へ出て行く? お笑い以外の何物でもありません。それが外的な要因、もっといってしまえば侵略者の手によるものであるとなればなおさらです。わたしは浄化しなくてはならない」
    「ばかな」ハーディング教授は、がっくりと椅子に倒れこんだ。「よくもまあ、この国が君みたいな人間を平気で置いているものだ」
    「この国の指導者は、わたしに対して理解を示してくれていますから。ご存知でしょう、この国は四方八方から攻撃を受けている。経済封鎖を受けていて、味方になってくれる国は一握りしかいない。この国が未だに命脈を保っていられるのは、国が貧しくて、諸外国も占領するだけのメリットを見出していないからにすぎない。そんな国の指導者としたら、いっぺんリセットして、新規まき直しをはかりたくなるのではないでしょうかね?」
    「狂っている。君も、この国の指導者も」
     教授の瞳にこれまでとはなにか違った光が宿っていることに気がついた。
    「どうされるつもりです、教授?」
    「どうもしないさ。わたしが今から五分後に合図をしなければ、超大国を含む諸国の連合軍がいっせいにこの国に侵攻を開始することになっている。今のこの国の軍事力から考えて、抵抗は一日ともつまい。もしかしたら、戦略核を使うことも考えられる」
    「かまいませんよ」
     わたしは、薄く笑った。
    「わたしの計画が目に見える形で現れるのは、今から、そうですね、三十分もしないうちですから。では、生まれ変わって逢いましょう、教授」
     わたしの身体はずるずると椅子の上から床に滑り落ちていった。教授が、愕然とした表情でわたしを見ていた。なに、考えるまでもない。マティニに、毒を入れておいただけなのだ。
     わたしはやるべきことをやって死んでいくのだ……。

     「わたし」の言葉は誤ってはいなかった。三十分もすぎないうちに、現文明は崩壊し、全ての生物はまったく違った肉体と精神をもって生まれ変わった。その点では、この「わたし」という男は、天才だったといえよう。
     問題は、「わたし」が考えもしなかったところにあった。
     生まれ変わった生物がその後に行ったことも、果てしない環境破壊と戦争だったのだ!
     生命はその宿痾から逃れることはできなかったのである。
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    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    むしろ、「生物」というものが惑星にとっての皮膚病みたいなものかもしれん、と思うことがあります。

    よく考えたらわたしのSFショートショートって、たしかに、「人類がひどい目にあう」「終末もの」が多いなあ(汗)

    おはようございます^^

    あぁ~~
    結局、地球にとって人間は一番の害虫であることに変わりはないんですね。。。

    人は結局、好戦的な生き物ということでしょうか。





    >神田夏美さん

    SFですから、極端な人間を出してしまいました。行住坐臥こんなことを考えていたら、それはただの「変な人」です(笑)。

    「幻魔」や「ウルフガイ」の平井和正先生は自作を「人類ダメ小説」と呼んでいらっしゃいましたが、畢竟、生命とは「ダメ」なものなのかもしれません。それを認識した上で、どうやってプラスに持っていくかが理性のやることなのではないかと思います。

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    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    人間が環境破壊と争いばかりを繰り返す種で、人間なんていなくなった方がいいんじゃないかと考えたとこは実は私もあり、(あくまで考えるだけで、別に人類を滅ぼす計画を企てたわけではありませんが)
    そういう思考を持ったキャラを作ったこともあるので、「わたし」の言葉の一部分にはちょっと共感してしまうところもありました。ですがそれを実行に移すのは、さすがというかおいおいというか、あらゆる意味で凄いです。
    生まれ変わった生物も環境破壊と戦争を繰り返す。人間の愚かさに終わりはないのでしょうか。

    >うつさん

    はじめまして。
    お褒めいただくのは有難いですが、どういうところが深く感じられたのかお教え願えるともっと有難いです。
    この話、毎日更新するにはすでにネタがなくてヤケクソでヒィヒィいいながら書いたものでして……(^^)
    それにPDFが作れるほど偉い人間じゃないですよわたし(^^) アドビ高価いし。
    またいらっしゃられると嬉しいです~♪

    ううむ。深い話だ。
    市販の小説と比べても遜色の無い内容だ。
    これをはじめとする各作品を
    PDFで読む方法は無いのだろうか?\(^▽^)/
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