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    「ショートショート」
    SF

    アイデアというものは

     ←ポールさんあなた深く考えて小説書いていないでしょ →さっちゃん
     「アイデアというものはそのままの形で空気中に漂っているものではない」といったのは誰だったか……。

     とにかく、わたしは今日更新するショートショートを長編にするか、もし長編にしたら書き出しをどうするか、頭を抱えながらパソコンの前に座っていた。

     アイデアが出ないことをネタにしていいのは、功成り名遂げて本を幾冊も出した大家と呼ばれる作家のみであることは重々承知しているが、ブログを毎日更新しているアマチュアのネット物書きも、アイデアの枯渇に悩んでいることは同じなのだ。

     なにか、書くきっかけになるようなものがほしい。空気中に漂っているアイデアを、こう……。

     わたしは右手を宙に伸ばし、ぐっと握り締めた。

     なにかが手の中につかまれた感触があった。

     虫でも捕まえたのかな?

     わたしは手を開いてしげしげと見た。

     わたしの手のひらには、なにかの化学式のようなものが書かれていた。もちろん、自分で書いたわけではない。

     不思議なこともあるもんだ。

     わたしは首をひねり、その式をパソコンに書き残そうとしたが、細かい数字と記号がいっぱいの化学式をどうパソコンで書いたらいいのかわからなかったので、しかたなく手近にあったメモ紙に書き写した。

     とりあえず、明日、ひさかたぶりに会う、科学畑に進んだ親友に聞いてみるか。



    「これを君が作ったのか」

     友人は、真っ青な顔をしてわたしが手のひらからメモ紙に書き写した化学式を読んだ。手のひらの式は、けさ水で洗ったら消えてしまった。黒鉛かなにかだったらしい。

    「そうだが」わたしはいざとなれば鉄面皮にもなれる男なのだ。「この式の意味は、君にもわかるよな」

    「もちろんだ……これはぼくの研究テーマで、どうしても埋められなかったミッシングリンクじゃないか。これがもし真実なら……というか、ぼくの目には誤謬がまるで見えないのだが……常温核融合の技術を確立する上で、わが国は十年、いや二十年は世界の先を越せる。いや、明日にでも、ぼくはこれを実用化できる!」

     こういう風に嘘がつけない人間を親友にしておくといろいろと便利である。

    「連名にして特許を取れないかな? わたしが三十パーセントで、君が七十パーセントの取り分ということで」

    「そんなことをいうな! 君が発見したんだ! 君が九割を取ってもいいくらいだ!」

    「じゃあ、五分五分ということにしよう。友達だもんな」

     わたしはいざとなれば鉄面皮の上に厚顔無恥にもなれる男なのだ。



     ふたりで設立した会社は、莫大な利益を上げた。わたしは、クーラーのきいた涼しい部屋で、ラジオから流れるブラームスを聞きながら、シャルドネのグラスを傾けつつ友人と株式相場について話をしていた。むろん、自分が相場師でないことは知っているので、自社株しか買ってはいないが。

    「あのアイデアは、どこから入手したんだい」

     友人が、何回目になるかわからない質問をした。わたしも同じように答えた。

    「原稿がどうしても書けないときに、空気中からつかみ取ったんだよ。嘘じゃないさ」

    「そのときは、なにを書こうとしていたんだい」

    「よく覚えていないが……そうだな、たしか、人間が争いを起こさないで、自然と調和して平和に暮らせるための思想をネタにしたショートショートか……いや、あのときは長編にしようかと思っていたんだが……それがどうしたんだい?」

    「いやね」

     友人は眉を寄せた。

    「エネルギー保存の法則を思い出したんだ。君が空気中からあの式をつかみ出したのが、いわゆる『マックスウェルの悪魔』によるものだとすると、そこで節約されたエネルギーは、どこか他のところで、他の形で釣り合いを取らなくちゃいけない……例えば、情報とかそんな形で。SFファンだから知ってるだろ」

    「SFファンだったのは昔の話さ。今は単なる遊び人だよ。でも、そういう話、どこかで聞いたことが……」

    「臨時ニュースを申し上げます……」

     いきなりブラームスがぶちっと切れ、切羽詰った声のアナウンサーに変わった。

    「アメリカ合衆国とEUに対し、AAIR、アラブ=アフガンイスラム共和国は常温核融合戦略ミサイルを発射、それに対し、米国は報復ミサイルを……AAIRと同盟関係にあった中国とロシアは、米国に対し報復ミサイル発射を宣言……」

     わたしはグラスを取り落とした。

     友人も真っ青な顔になっていた。

    「君が空中から式をつかみださないで、当初の構想どおり長編を仕上げていたら、もしかしたら、世界を平和にするための思想が全世界に伝わり、エネルギー保存の法則どおり、地球のエントロピー増加は、もっと抑えられていたんじゃ……」

     わたしの耳にはミサイルの飛ぶ音しか聞こえていなかった。
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    ~ Comment ~

    Re: さやいちさん

    ブルーハーツとは懐かしいですね。

    ブルーハーツの曲は、高校のころ軽音楽同好会の連中が練習と称してもうイヤになるくらい毎日鳴らしていたので、愛憎半ばするものがあります。曲はいいんですけどねえ……(^^;)

    こんばんは。

    そんな・・・
    THE BLUE HEARTSの【未来は僕等の手の中】
    みたいな事、本当にあったらこわいですねぇ。
    知ってますか?この曲。

    結構いい歌ですよ♪

    Re: YUKAさん

    とにかく、世の中をもうちょっと「マシ」なものにするアイデアというか思想がどこかにあると思うんですよね。ちょっとした発想の転換なんかで。

    でも実際は漸進的に少しずつ世の中を改善していくしかないんだろうなあ……。

    こんばんは♪

    う~~ん、釣り合いが取れている作品。
    長編を完成させることができたら、物凄い作品だったということですね。


    錬金術の等価交換を思い浮かべちゃいました^^;

    Re: オンリーノート。さん

    コメントどうもありがとうございます!

    夏の暑い日とか、冬の寒い日になると、「マクスウェルの悪魔」を呼び出して熱分子をコントロールできないものかなあ、と思います(^^)

    マクスウェルの悪魔は思考実験としては面白いので、過去に何作もSFの名作が書かれてますね。堀晃先生はこのネタ、というか、エントロピーのからんだネタが大好きだったようで、わたしも昔読んでどきどきしたものです(^^)

    思い出すことなど・・・。

    コンニチハ、ポールさん、少し古い作品を読ませてもらいた。僕も、最近 トマス ピンチョンを読んで、マクスウエルのことが出てきたので、よく使われるネタだんぁ・・・と思いました。短いけど・・・面白いですね。ポールさん。

    Re: 才条 蓮さん

    それにしても超人的なのは星新一先生です。

    どうやったら1001篇もショートショートが書けるのだ。

    わたしなんか100篇ちょっとであっぷあっぷなのに……。

    NoTitle

    確かにアイデアっていうのは枯渇しますからねえ。
    私みたいに一つのテーマを何ヶ月もかけて書くのならともかく。
    毎日消費していると尽きてしまうものですからね。
    今日はしんどそうに書いているなあ・・・と見られるときもありますけどね。まあ、のんびり書いたらいいと思いますよ。

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    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    Re: 矢端想さん

    昔読んだSFでは、マックスウェルの悪魔がいたとしても、熱力学には反しないそうであります。

    なぜなら、マックスウェルの悪魔が、熱を帯びた分子を移動させると、マックスウェルの悪魔は「その分子に関する情報」を失ってしまうから、だそうです。そこから先の難しい話になると哲学科中退のわたしにはついていけなくなりますが、まあだいたいそんなところでしょう、現実は。

    そういやあ、これをネタにして、ラリー・ニーヴン先生がくだらないショートショート書いていたなあ。わたしは好きな作品だけど。

    NoTitle

    無学にも「マックスウェルの悪魔」知らなかったので、調べました(便利な時代だ。「一億総インテリ化」)。
    量子論にしても哲学にしても(いっしょくたにしてスマソ!)こういうのはどうも屁理屈合戦に思えて仕方がない。屁理屈嫌いじゃないけど。実際に理論が現実に応用されてるしね。
    「観測」ってエントロピー増大を伴わないの? その悪魔自体はエネルギーの外にいるの?
    ・・・先生!僕の頭では難しいっす!

    Re: limeさん

    ちなみにこの小説の元ネタは、堀晃先生の(復権著しいとはいっても知らない人のほうが多いだろうな……天才的なSF作家です)某短編ハードSFであります。

    自分なりにアレンジしましたが、わかる人が読めばすぐ「あれだ!」とわかってしまう……でももうネタが(^^;)

    とりあえず記事数が1001に達したらシェヘラザード先生に倣って隠居しようかな(^^;)

    NoTitle

    「わたし」は、よけいな事をしたってわけですね。
    いつぞやの、物理学者のように・・・。(いや、私は尊敬してますが)

    エントロピーの増加は熱力学の中の概念とはいえ、
    なんとなく、ありそうで・・・なさそうで。
    この世はなにか、「釣り合い」で保たれてるというのは感じますね。
    マックスウェルの悪魔は、そこここで、悪さをしてるのかも。

    あ、さっきのサイト、見ました。
    しばらく焼き肉は食べれそうにありません。・・・なんちゃって、平気です(意外と図太い)
    そして、さらに袋小路。
    ここはひとつ、警察の大チョンボということにしようかしら^^;
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